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北海道のスタートアップエコシステム充実のためのあれこれ〜「Open Network Lab HOKKAIDO」のデモデーが開催〜

「Open Network Lab HOKKAIDO」第1期生デモデーにて

「Open Network Lab HOKKAIDO」第1期生デモデーにて

 10月12日に北海道札幌市において「Open Network Lab HOKKAIDO」のデモデーが開催された。これは「北海道でのイノベーションエコシステムの構築を目指す」ことを目標に掲げて、今年の6月に始まったシードアクセラレータープログラムに参加しスタートアップを目指すチームが、この数ヶ月間で練り上げてきた自身の起業プランを披露する場だ。

 この場を通して、資金調達のきっかけを作ったり、企業との連携を模索したりすることが目的だ。そのため、ここ数ヶ月は事業計画の精緻化を行うことに加え、自分たちのビジネスプランがいかに有望で将来性があるものか短い時間で、的確にアピールすることができるよう、プレゼンテーション技術の向上などにも力を尽くしてきた。

 このように、起業家予備軍をさまざまな面でバックアップし、北海道発の起業を活性化させよういうこの試み。道内では育成プログロムを持ったこのような取り組み自体が先駆的なものであるため、運営側にもいろいろと新しい気づきがあったようだ。地方都市でスタートアップのエコシステムを作り上げるには、なにが不足しているのだろうか。

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北海道新聞社の藤間恭平氏(2018年4月20日Open Network Lab HOKKAIDOのローンチイベントにて撮影)

北海道新聞社の藤間恭平氏(2018年4月20日Open Network Lab HOKKAIDOのローンチイベントにて撮影)

 事務局として、プログラムの立ち上げから運営に到るまで一切に関わった北海道新聞社営業局営業本部の藤間恭平氏によると、スタート前の懸念点は道内での募集にはたしてどの程度のエントリーがあるのかということだったという。これまで起業ということになると、それをサポートする仕組みが整った東京へ出かけてしまうため、起業予備軍はすでに東京に進出しているのではという心配があった。しかし、幸いなことに応募開始後、早々と50組を超えるエントリーがあった。初回としてはまずまずの成果だ。ただし、最終的に採択されたチームには、北海道ならではの観光や農業、漁業といった分野に関わる提案は含まれなかった。

 また、このプログラムが道内に知られるにつれ「プログラムへの応募者やチームと協業したい」。あるいは「自社でも同様の取り組みを行う必要を感じているので、オープンイノベーションのノウハウを提供してほしい」といった申し入れが、いくつかの道内企業や自治体などからあったという。

 顧客データ分析から新たな商機を見つけたい企業、地域産業振興のために、従来にない分野での新しい地場産業を必要とする地方都市などは道内にも数多く存在する。自身の課題は理解しているものの、解決に至る道筋やその手法を指南してくれる相手が少ないのだろう。ありきたりの地方創生プランで行き詰まる組織にイノベーションの風を送るという役割もあるようだ。

 北海道内の現時点でのスタートアップエコシステムの特徴としては、地元企業や自治体は上記のように期待が大きいため協力的で、実証実験なども進めやすい環境にあるという。また、起業人材を供給する大学もあり、アカデミズムの協力も得やすい。ただ、ロールモデルとなる道内出身の起業家がまだまだ少ない。そうした先輩起業家からのアドバイスはエコシステムには欠かせない要素だ。

 加えて、スタートアップの資金調達環境の整備や充実も今後は必要と思われる。道内では、銀行などの新興企業向けの融資制度や公的機関からの補助金などが主な資金調達方法となり、投資家からの資金を求めるなら東京で起業をする方が効率が良い。事業会社のスタートアップへの投資ファンド(CVC=Corporate Venture Capital)など多様な資金調達先が北海道内でも整備されていけば、より環境は整うだろう

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 この日はデモに登壇したのは5組。個人情報の価値に注目し、それを統合的に管理するビジネス(CryptoLake株式会社「MyDee」)や、個人の医療・健康情報を1枚の携帯可能なカードに集約するサービス(株式会社ミルウス「miParu Card」)など、個人情報管理という今後大きなマーケットが期待される分野への挑戦がある一方で、賃貸物件に関するデータを分析し、安定的かつ高収益な賃貸収入を得るシステム(株式会社ライトブレイン「満室ナビ」)や、雪を溶かすロードヒーティングをAIを活用することで効率的に運用するシステム(TIL株式会社「AI Road Heating Optimizer」)など、すぐにでも活用できる提案もあった。

「AILL(エイル)」を紹介する株式会社gemfutureの豊嶋千奈CEO

「AILL(エイル)」を紹介する株式会社gemfutureの豊嶋千奈CEO

 その中で最優秀(Best Team Award)を獲得したビジネスはユニークなもので、成果主義が心の底まで浸透し、無駄なことや傷つくことを恐れ、恋愛に踏み切れない若者をAIで支援する株式会社gemfutureの「AILL(エイル)」というサービスだ。応募当初は出会いの機会を作るマッチングシステムを想定していた。だがアクセラレータプログラムで事業計画を練るうちに、男女間の会話の支援など「出会うだけではうまくいかない人」を総合的に援助するサービスを構築する必要性を感じたという。この提案が評価されての受賞となった。

 この日のデモを準備する過程で「起業をするのに、何故5分間スピーチの練習をこんなにもしなくてはならないのか」というとまどいもあったようだ。しかし、短い時間で話すために考えることが、アイディアのブラッシュアップにつながっていくことに気がついたはずだ。国内外の大規模なピッチコンテストで見られるような場数を踏んだ起業家たちに比べると、つたない部分はあるものの「道内では稀に見るレベルの高さ」という審査員からのお褒めの言葉をもらえたのは、アクセラレータプログラムでの修練の賜物だろう。しかし同時に審査員のひとりで先輩起業家でもある、株式会社ファームノートホールディングスの代表取締役である小林晋也氏からは「もっと気迫があってもいいんじゃないか」との指摘を受けていた。企業を率いてグローバルに活躍する経営者になるには、まだまだ不足しているものが多くあるのも事実だ。

 ともあれ「Open Network Lab HOKKAIDO」の第1回目のアクセラレータプログラムはその成果として、5組の起業家たちを世に送り出した。プログラムは第2回、第3回へと続き、その取り組みが北海道においてどう評価されるのかは、今日スタートの日を迎えた5組の起業家が今後どんな活躍をみせてくれるのかにもかかっている。今回の経験を活かし、北の大地から世界に知られるスタートアップが続々と現れる環境ができることを期待したい。

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朝日新聞社にてデジタルメディア全般を手掛ける。「kotobank.jp」の創設。「asahi.com(現朝日新聞デジタル)」編集長を経て、朝日新聞出版にて「dot.(現AERAdot.)」を立ち上げ、統括。現在は「DG Lab Haus」編集長。