コロナ禍以降、リモートワークが一般的になってきた。満員電車での通勤が不要になったり、オフィスに縛られない働き方ができるようになったのはいいと喜ぶ声がある一方、オフィスというリアルな場でのコミュニケーションが失われてしまい、やりにくくなったという声も聞き逃せない。
例えば、リアルなオフィスで仕事中の立ち話に、通りがかりの別の部署のメンバーが割り込んできて、問題が解決したとか新しい提案が生まれたという経験はないだろうか。そのような偶発的なコミュニケーションは、オンラインでは生まれにくい。
リモートワーク用会議向けのツールは、この数ヶ月の間でもどんどん進化している。しかし、Zoomに代表されるそれらは、あくまで「目的を持って使うツール」であり、目的以外の用事は話しにくい。前記のような「立ち話」や「雑談」には不向きであり、それがリモートワークを「便利だけど何だか足りない気がする」ものにしているのではないだろうか。
そこでこの8月に登場したのが、実際のオフィスでのコミュニケーションを再現できる「oVice(オヴィス)」だ。oViceを開発した株式会社NIMARU TECHONOLOGY CEOジョン・セーヒョン氏に話を聞いた。ちなみに、石川県七尾市の古民家において、リモートで仕事をするジョン氏とのインタビューはoVice上で行われた。
一般のビデオ会議ツールとは異なり、oViceのバーチャル空間に入室すると、リアルなオフィスのようなスペースが広がり、ログインした自分はアバターとして表示される。そのアバターを動かして、人が集まっているところに近づいていくと、そこにいる人たちの声が聞こえてくる。アバターである自分のまわりには、声が届く範囲を示す円が表示される。そのまま、立ち聞きしていてもよいし、話をしたい誰かに呼びかけることもできる。
今回のインタビューでもジョン氏が筆者を見つけ、声をかけ「左下のソファの席に行きませんか」と誘ってくれた。この「声をかけられて移動する」というユーザー体験は、リアルのオフィスのそれにとても近いものだと感じた。
ジョン氏は、「oViceは、“音声”のコミュニケーションなんです」という。実際に、自分のアバターが相手から離れていくと、相手の声がだんだん小さくなり、何とか話が聞こえる程度になる。「日本語でいうと“聞き耳を立てる”というやつですか」とジョン氏は笑う。もちろん、2人だけで人に聞かれたくない話をしたい時もあるだろう。その時には、プライベートなミーティングルームに移動すればよく、誰も立ち入れないように鍵をかけることもできる。
音声コミュニケーションだけではなく、画面のシェアや、Zoomなどのように全員顔を出してやり取りするカンファレンスコール(テレビ電話会議)も可能で、実際にジョン氏とは画面を立ち上げて、インタビューを行なった。
今年の2月、ジョン氏が出張でチュニジアに行った時、新型コロナウィルスによるロックダウンに巻き込まれてしまった。そのため否応なくリモートワークを続けることになり、その中で感じた不便さをどう解決するかというところからoViceは生まれた。最初は自分の会社用にと考えたが、事業化できるのではないかと急いでベータ版を作成し、ユーザーへのヒアリングを重ねて、8月にサービスとして公開した。チュニジアに滞在しながら、同国の不安定な通信環境下で開発したので、低速のインターネット環境でも問題なく動作するのが特徴だ。
oViceについては、とくに広告などは打ってはいないが、大企業を中心に問い合わせが引きも切らないとジョン氏は自信をのぞかせる。リモートワークのためのバーチャルオフィスとしてはもちろん、大学や展示会などのイベントに利用したいとの問い合わせもある。「とくに今年は、大学の新入生が大学に行けず、仲間とも知り合えない状況じゃないですか」(ジョン氏)
確かに、oViceは大学のラウンジでたむろする雰囲気に近いところはあるかもしれない。
今後、徐々に働く場はリアルなオフィスに戻るはずで、リモートワーク組と出社組に分かれてしまうと両者の間に情報格差が生まれてしまうのでないかとジョン氏は危惧する。
それを解消するために、リアルなオフィスにもIoTデバイスを配置し、オフィスの実際の人の動きや音声をoViceに取り込んだ上で、在宅組も利用すればよいのではというのがジョン氏の提案だ。そうすれば、oVice上で、リモートワーク組も自然にリアルなオフィスでのやり取りに溶け込める。また、出社組もオフィスで仕事をする際に、oViceを覗き込めば、まるで隣にリモートワーク組のメンバーがいるかのようにやり取りができる。
このように、oViceが仕事のインフラになってくれれば嬉しいとジョン氏は笑い、話を終えた。
oVice社関連リンク(プレスリリース)
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