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「9lione(クリオネ)」は起業する仕組みを活用しスピードアップをはかる 

「9lione(クリオネ)」代表の廣田雄将氏

「9lione(クリオネ)」代表の廣田雄将氏

 ふと新しいビジネスやサービスを思いつく時というのは、誰にでもあることだ。「こんなサービスあればいいのに」「これ商売になるんじゃないかな」など。だがほとんどの人は思いつくだけで、それをアクションに結びつけることはない。

 ところが、まれにそのアイデアで起業をしてみようと人がいる。そう思ってしまったらまず始めに何をすべきなのか。企画書を作る。仲間を募る。お金を集める……。

 こうした起業準備にかかわる一連のことについて、知識を与えてくれたりトレーニングを施してくれたりといったサポートを行うプログラムが存在する。

 こうしたプログラムは起業家やその予備軍にどのような利点があるのだろうか。

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ユニホームのクリオネの刺繍は廣田氏のお手製

ユニホームのクリオネの刺繍は廣田氏のお手製

 日本のシードアクセラレータープログラムの分野では老舗で、2010年に始まった「Open Network Lab」の第17期生で、10月に開催されたデモデーで最優秀賞とオーディエンス賞をダブル受賞した「9lione(クリオネ)」の代表である廣田雄将氏に話を聞いた。

 廣田氏は大学在学中にすでに学生イベント、広告関連のビジネスを自ら主催していた。しばらくその仕事を継続していたのだが、「年齢的に学生との距離感を感じるようになった」ため、その事業を手放した。その後、動物病院の事業承継やM&Aをサポートする仕事を手伝うようになったことが、今回の起業につながったという。

 最初に気がついた問題点はアナログな発注。これをアマゾンDash Buttonのようにボタンひとつで発注できないかと考えたが、薬局の薬は家庭の日用品とは異なり品目数が多すぎて断念。次にずさんな医薬品の発注の結果、薬局には多くの残薬が発生していることに着目。廣田氏が実際にそういった状況に遭遇したのは動物病院なのだが、ヒトを相手にした通常の薬局でも同じ状況なのだろうとの想定のもと、こうした残薬をフリマアプリで売買してはどうかというアイデアを思いついた。そしてこのアイデアで起業をすることに。

 すでにビジネスの経験はあった廣田氏だがこれまでは自分自身で資金を準備し、事業を回してきた。他人から資金を募るという形式やアクセラレータプログラムを経てスタートアップ企業となるというプロセスには「売り上げゼロでも進められるなんて」と心理的な抵抗があったという。

 しかしアイデアはあるものの、これをビジネスにするとなると医薬品業界は巨大で、人命に関わる産業だけに規制なども厳格だ。自分ひとりでは、知識やノウハウにも限界がある。事業を迅速に進めるには専門的な知見を持った外部の意見や、これまでより大きな資本が必要になる。「スピードを上げるために既存のアクセラレータープログラムに参加する」そう割り切って考え、Open Network Lab(以下、オンラボ)にエントリーした。数あるプログラムからオンラボを選んだのは「古い(歴史がある)し、サポートいいらしいよ」と知人から聞いたからとのこと。

 幸い採択され、3カ月間のアクセラレータープログラムが開始。この3ヶ月の中で、おおよそ週に1回のメンタリングを受けながら、最初はアイデア検証のプロセスを行なった。価格コムやデジタルガレージの現役社員であるメンターからのアドバイスは、「とにかく数多くのヒアリングを行うこと」。7月8月の夏の暑いさなか、「歩いて回っていたら1日3件ぐらいなので、自転車を買ってきて、スピード重視で薬局まわりをしました」とここでもスピードアップ。その結果判明したのは、残薬は確かに多いが、それ以前に中小の薬局では在庫管理や発注に問題があり、まずはその部分を解決した方が良いということ。そこで当初の「残薬のフリマ」から「手軽にできる医薬品在庫管理サービス」へとピポッド(方針転換)を行なった。検証を経た後のこうした変更は新規事業にはつきもので、自分がいいと思うものからより使ってもらえるものに柔軟に転換できるというのも、メンターサイドから見た廣田氏の強みだという。その後、プロダクト開発へと移るわけだが、医薬品の消費期限など在庫の管理を何によって行うのかなどについては、メンターが持っている知識からアイディアを拾っていった。

 3カ月の締めくくりとして、最後に自らの事業構想を投資家や事業会社に説明する機会があるが、オンラボの特徴として、プレゼンテーションは、全てその内容を暗記したうえで、デモを行わなければならない。これが大変だという。しかしその後、事業内容を他の人に説明する際には、要点をスラスラと説明できるようになり、この時の苦労が大いに役に立ったとのこと。

 デモデーでは多くの聴衆を前にして、廣田氏も緊張したという。その結果、大声がさらにマイクで拡大され爆音でのプレゼンとなったことはご愛嬌。しかし、その着眼点は秀逸でデモデーの後、多くのベンチャーキャピタルや事業会社から声がかかり、有意義なつながりを持つことができるようになった。こうした関係性を一挙に獲得できるのも、このようなプログラムの利点だろう。

 3カ月感を通して、検証、そして方針転換、将来への繋がりの確保と、廣田氏はプログラムをうまく活用したようだ。

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「こうして腰を屈めてものを拾った時にお尻のポケットのクリオネの刺繍に皆んなが気づいてくれる」と実演してくれた廣田氏

「こうして腰を屈めてものを拾った時にお尻のポケットのクリオネの刺繍に皆んなが気づいてくれる」と実演してくれた廣田氏

 廣田氏の会社の名前でもあり、サービスの名称でもある「9lione」の由来は「quality of life is one.」の頭文字。「quality of life」をひとつのプラットフォームにするというのがひとつ。そして悪魔のように大口を開き捕食する流氷の天使「クリオネ」にちなみ、医療機関の天使でありながらも、業界を変革し、業界を喰らう存在でもありたいというのが、もうひとつの理由だそうだ。

 アクセラレータープログラムに参加して、当初目的とした、VCなどとの繋がりを得た今、次なる課題はプロダクトの検証を進め、毎日使われるサービスに作り上げることだ。廣田氏の認識では製薬会社、卸と薬局で出来上がっている医薬品業界の構造は堅固なもので、まずはこの医薬品管理サービスをきっかけに、そこに参入する計画だ。将来的にはそれをテコに業界をこじ開けていきたいという。「いきなり医薬品業界のアマゾンは難しいので」と現実を見据えていながらも、将来像は雄大だ。プログラムを活用し卒業した廣田氏と9lioneが業界で存在感を発揮する日が楽しみだ。

北元均 Written by
朝日新聞社にてデジタルメディア全般を手掛ける。「kotobank.jp」の創設。「asahi.com(現朝日新聞デジタル)」編集長を経て、朝日新聞出版にて「dot.(現AERAdot.)」を立ち上げ、統括。現在は「DG Lab Haus」編集長。