芸術やスポーツ、科学技術などの分野で、世界を舞台に独創的な挑戦を続ける人物を讃えるとともに、今後の活動を支援することを目的とし創設された「デジタルガレージ ファーストペンギンアワード 2017」の授賞式が29日に東京都港区の虎ノ門ヒルズで行われた。
2017年度の受賞者として、世界を舞台にアーティストとして活躍する坂本龍一さんが選出された。YMO(イエローマジックオーケストラ)での音楽活動や『戦場のメリークリスマス』などの映画出演によって、広く知られる坂本龍一さん。世に先んじて先端テクノロジーを導入した芸術活動をグローバルに展開する一方で、森林保全活動や、東日本大震災被災地の幼稚園・小・中・高校に対しての音楽活動支援などを継続的に行う仕組み作りなどを熱心に行ってきた。
本アワードの名前の由来となっている「ファーストペンギン」とは、海の中にいる獲物を得るために自らを危険にさらすことを覚悟して、氷床から真っ先に海に飛び込むペンギンのこと。そこから転じて、集団から一歩先んじて、リスクを恐れずに新規ビジネスを始めたり、新たな技術を採用する勇気を持った人物を指している。新しい技術や機器を取り入れ、ジャンルにとらわれない音楽活動を行い、環境や平和に関しての発言も積極的に行う坂本さんは、まさに「ファーストペンギン」を体現してきた人物だ。
受賞式に続いて行われたスピーチでは、環境問題を意識して、いち早く自身のCDパッケージを紙素材に変更したが当初は不評であったことや、コンサートで消費される電力をできるだけ自然エネルギーでまかなう工夫をしたことなど「ファーストペンギン」的な取り組みを振り返り語った。
また、質疑応答では「ファーストペンギン」としてこれまで最大リスクについてたずねられると、2014年に公表した自身のがん治療の後、乞われて映画『レヴェナント:蘇えりし者』(アレハンドロ・G・イニャリトゥ監督)の音楽制作を担当した時は、病後ということもあって「これをやったらまたガンが再発しちゃうんじゃないかと」思ったことをあげた。さらにそれだけのリスクがありながらチャレンジし続ける理由については、「自分が今まで、できてないことを見たい、聞きたい。でも長く仕事をしていると、新しいことが出てくるのは難しい。それでもまだ何かあるかもしれない。で、苦労してみて今までやったことのない音楽やアイディアが出てきた時は非常に嬉しい。それが嬉しくて続けてきている。」と答えた。
そんな坂本さんの震災以降の活動を追ったドキュメンタリー映画『Ryuichi Sakamoto: CODA』もこの秋には公開が予定されている。新しい出会いや、自身の可能性を探り続ける「ファーストペンギン」の活動は、まだまだ忙しく続いていく。