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ブロックチェーンを実社会に実装する 2.0の世界へようこそ(後編) GLOCOMシンポジウム

(右から)杉井靖典・カレンシーポートCEO、田中謙司・東京大学特任准教授、安昌浩・ALIS代表

(右から)杉井靖典・カレンシーポートCEO、田中謙司・東京大学特任准教授、安昌浩・ALIS代表

前編はこちらからご覧になれます

ブロックチェーン2.0の可能性

「(ブロックチェーンは)中央管理者なしで価値を登録、移転できる分散インフラ技術。インターネットではできなかったこと」。高木聡一郎氏(GLOCOM主幹研究員)はブロックチェーンをこう定義する。プログラムも実装できるから「共有された約束事」を条件が整えば自動的に処理すること-スマートコントラクト(契約)-も可能だ。また、外部APIとの連携も可能になりつつある。

 実例のひとつが、さいたま市浦和美園地区で行われている「ブロックチェーンによる電力流通決済システム」実証実験。家庭で発電した電力を市場メカニズムによって融通し売買する自動取引をブロックチェーンによって実現している。

 太陽光など再生可能エネルギーがより低コスト化し各家庭で発電する時代が本格化すると、発電所から家庭や事業者に電力を送るという、ニコラ・テスラが設計して以来四半世紀続いている中央集権的な電力網は過去の遺物となる。近未来の電力網には何百万ものユーザーが双方向で接続され、電力の売買を自動的に行うことが求められる。

宮村和谷・PwCあらた監査法人パートナー(右)と高木聡一郎・国際大学GLOCOM主幹研究員

宮村和谷・PwCあらた監査法人パートナー(右)と高木聡一郎・国際大学GLOCOM主幹研究員

 実証実験を行っている田中謙司氏(東京大学特任准教授)は「誰もが発電し売買する状況はニコラ・テスラも予見できなかったこと。将来は発電・消費を相互に行う電力のインターネット化が起こる」とみる。その上で、ブロックチェーンを使うメリットについて「個別の電力のやり取りは単価が安く、人を介すると赤字になる。プラットフォームで融通する仕組みが必要になるが、中央集権ではコストが高くつく。スマートコントラクトなどできる限りブロックチェーンで実装し、アプリに落とし込もうと思っている」と将来像を語る。ただ、取引のベースである仮想通貨イーサリアムが10年後もサポートされるのかには懸念があるといい「リナックス的な成長を期待している」とも述べた。

 高木氏によれば、イギリス労働年金省がマンチェスター市で、生活保護費の支給に仮想通貨を使う実証実験を行っている。生活保護費で購入できる商品を限定し、制度の目的に合致しない支出を抑制、トレーサビリティ(追跡可能性)と透明性を確保するという。スウェーデンでは、不動産売買と登記の全体に関わる利害関係者を網羅するブロックチェーンのシステムを検討中。また、WeChat PayとAlipayなど異なるモバイル決済プラットフォームをトークンによってブリッジする「つなぎ役」となることも検討されている。IoTを使い環境データの収集をマネタイズするアイデアもあるという。

 高木氏は、ブロックチェーン2.0では「ブロックチェーンでしかできないこと、ブロックチェーンに載せる意味のあるサービスは何だろうかを、問われるようになってきた。食品偽装やチケット転売の防止、医療保険請求などブロックチェーンならではのユースケースを苦労して考えている」と現状を紹介した。

ICOは新しい事業開発の仕組み

 仮想通貨は海外送金や価値の貯蔵に利用価値があるが、実需となるとこれまではその実例に乏しかった。そんな中で、ICO(Initial Coin Offering)が初めての実需と呼べるものかもしれない。一般にICOは仮想通貨を使った資金調達と認識され、金融庁も「企業等が電子的にトークン(証票)を発行して、公衆から資金調達を行う行為の総称」と規定している。<ICOについて ~利用者及び事業者に対する注意喚起~ >

 しかし、ICOで約4.3億円を調達したALISの安昌浩氏(ALIS代表)は「ICOを資金調達と言うとミスリードになる。アイデアに共感するユーザーやファンとともに進める新しい事業開発の方法」と規定する。その理由として、スラックなどALISのコミュニティでファンやトークン購入者が、ALISの目指すサービスを自主的に発信しているケースなどを紹介。「トークンエコノミーの面白さを体感している」という。一方、ICOのリスクとして「これまでのベンチャーでは不要だった一般投資家対応、調達通貨の管理などケイパビリティが求められる」ことも挙げた。

 また調達額については「3年間チャレンジできる必要最低限がベスト。少額を確実に調達したほうが価値を上げやすく、金額が多いと価値を上げにくい。トークンの価値はコミュニティの力に支えられている。有望なコミュニティはユーザーの貢献が活発」と述べた。

 ALISの目指す「信頼できるコンテンツのプラットフォーム」について高木氏は「ICO(の出資者)はサポーターであり、サービスを育てる側面がある」と言い、調達資金額に関しては、海外のICOを念頭に「集まりすぎている面があり、100億円集めるとモラルハザードも起こる。調達総額とサービスから生み出されるキャッシュを関連づける必要がある」と指摘した。

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 セミナーは国際大学GLOCOMとGLOCOMブロックチェーン経済研究ラボの主催で、昨年に続き2回目の開催。高木氏の講演、岩下氏の特別講演、2つのパネルディスカッションが行われ、記事では各氏の発言を再構成した。

GLOCOMブロックチェーン・イノベーション2017

The Land Registry in the blockchain

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北海道新聞で記者を経て現在、東京支社メディア委員。デジタル分野のリサーチ、企画などを担当。共著書・編著に「頭脳対決!棋士vs.コンピュータ」(新潮文庫)、「AIの世紀 カンブリア爆発 ―人間と人工知能の進化と共生」(さくら舎)など。@TTets