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ブロックチェーンを実社会に実装する 2.0の世界へようこそ(前編) GLOCOMシンポジウムから

岩下直行・京都大学教授(右)と本間善実・日本デジタルマネー協会代表理事

岩下直行・京都大学教授(右)と本間善実・日本デジタルマネー協会代表理事

 2017年は仮想通貨のエポックとなった。ビットコインはフォーク(分岐)を繰り返し、金融商品史上例のない高騰を見せた。ICO(Initial Coin Offering=仮想通貨による資金調達)によって巨額の資金をかつてないスピードで調達できるようになった。2018年、ビットコインによって主導されてきたブロックチェーン技術は、実社会に適用範囲を広げるか。ビットコインの価格が1万6000ドル、200万円を超えた12月8日、東京都内で開かれた国際大学GLOCOM主催のシンポジウム「ブロックチェーン・イノベーション2017」を報告する。

2017年 ビットコイン分裂と熱狂

 ビットコインは8月にビットコインキャッシュ、10月にビットコインゴールド、さらにダイヤモンド、プラチナなどの分岐が実施、予定されている。当初は分岐による価値下落が懸念されたが、実際には分岐による新コイン付与への期待から、ビットコインも分岐コインも価格が上昇する現象が起こっている。分裂の背景には、主にビットコインの技術基盤を整備するコア開発者と、分散台帳に取引記録を追記して報酬を得るマイナーの対立などがある。

 この日登壇した岩下直行氏(京都大学教授)はこれらを「分裂商法」と呼ぶ。「株式分割で1株を2株にすれば価格は半減する。ビットコインは株式における企業価値はなく、基本的にゼロ。しかし、なぜか値段がついている。そうすると、いくつに分裂しようが関係ないことになる。分裂の本質は覇権争い」

 高木聡一郎氏(GLOCOM主幹研究員)も「リーダーがおらず強制力がないため、常に分裂のリスクがある。そして分裂するほど時価総額が増える不思議な現象が起きている」という。

 ビットコインの取引量が膨れ上がるにつれ、取引承認時間の遅延、送金手数料の高騰も顕在化した。解消策としてブロックサイズの引き上げなどが検討されているが、上述のような対立などで合意に至るのが困難な状況だ。現状を岩下氏は「現在の仮想通貨45兆円市場をフイにして改造することはできないから、飛行機を飛ばしながら改造しているようなもの」だと指摘する。分散システムによる合意形成によって価値を送受信するというシステムは稼働しているのに、人間の合意形成ができないというのは皮肉な状況だ。

 背景のひとつに、マイニング事業が寡占化したことある。岩下氏は「普通にみんながパソコンでマイニングできる世界が良かった。ASIC(application specific integrated circuit=マイニングに特化した専用機器)が失敗のもと。ナカモト・サトシが夢見た世界とは違うものができた」とも述べた。

首藤一幸・東京工業大学准教授(右)と斉藤賢爾・慶応大学SFC研究所上席所員

首藤一幸・東京工業大学准教授(右)と斉藤賢爾・慶応大学SFC研究所上席所員

 一方で、2009年1月3日のgenesis(起源)ブロック以来、ビットコインはいくつもの危機を乗り超え真性のブロックを繋いできたことも事実。ビットコインが利害対立でバージョンアップできないのは、バグではなく誕生以来、仕様が変わらないからでもある。首藤一幸氏(東京工業大学准教授)はこの点をビットコインの「興味深い性質の一端」とみる。「(法定通貨のように)インフレ目標の設定などできない。この点はすごく重要だと思う。最初の設計がとても上手くできていたから変えられない。信じられるから価値があるというのは大事な面」という。

 本間善実氏(日本デジタルマネー協会代表理事)も、ビットコイン懐疑論について「開発現場には活気がある。飛行機を飛ばしながらフィックスする危険はあるが、コア開発者は有能で情熱があり、サードパーティがエコシステムを日々拡大している」とした上で、「ビットコインは、今日まで分散合意という歴史上類のないことを続けている。アップグレードも難しいのが分散型合意システム。チャレンジングな状況であり、フォークも続くだろうが、どこかで終わって健全な状況になってほしいと思っている」と述べた。また「マイナーが辞めたとき、ビットコインの危機が起こる。その時は誰も責任を取れない」とも指摘した。

 共通する懸念は、ビットコインの価値がブロックチェーンへの期待を下支えしているという点だ。高騰を続けるビットコインがこの先暴落した時、ブロックチェーン技術そのものに水をさすことにならないだろうか。

 岩下氏は「ビットコインが価値を持ち続けるのは難しいのではないか。これ以上、分裂を繰り返すのも無理なこと。技術としてのブロックチェーンに希望を持った方が良い」、首藤氏も「ブロックチェーンは現実世界の公証役場のようなもの。そのシステムが通貨へのインセンティブに支えられていることは危うい。しかし、ブロックチェーンにアプリケーションは載せたい。そのインセンティブの連鎖をつくる必要がある」と指摘する。

 ブロックチェーンには技術的可能性と現実的課題を解決する力がある。ビットコインという仮想通貨のアプリケーションを超え、実社会で活用される2.0の段階に発展するためには、ユースケースを広げインターネットのような社会インフラとなれるかにかかっていそうだ。

後編へ続く

田中 徹 Written by
北海道新聞で記者を経て現在、東京支社メディア委員。デジタル分野のリサーチ、企画などを担当。共著書・編著に「頭脳対決!棋士vs.コンピュータ」(新潮文庫)、「AIの世紀 カンブリア爆発 ―人間と人工知能の進化と共生」(さくら舎)など。@TTets