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会社を巻き込み「個としての思い」も実現する4つの秘訣

NEC事業イノベーション戦略本部ビジネスデザインセンター山岡和彦さん

NEC事業イノベーション戦略本部ビジネスデザインセンター山岡和彦さん

 自然エネルギーの活用、地域社会の活性化などテーマや手法は違えども、社会課題の解決に取り組むことが、新たなビジネスの創出にもつながることが広く認識され始めた。それは国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」に準拠した事業方針を発表する企業の増加からも読み取れる。そんな中、企業の枠を超え自治体やNPO、地域住民と、あるいは異業種の企業間で社会課題を発見、共有、解決するための糸口を探す「共創」という取り組みを実践する人たちがいる。

 だが、そういった活動を進めるにあたって、自らが所属する組織(企業)の現場では「壁」、それも「自社の壁」に悩むことになる。「共創」の意義が社内で理解されない、また業績評価に結びつかないという声だ。自社の売り上げに直結することでないと、周囲は認めてもらえない現状で、活動の意義をどうすれば周囲に理解してもらえるのか? 

 今回は、長年現場でこうした活動に取り組んできたベテランの声からそのヒントを探りたい。多くの「共創」プロジェクトに取り組み、結果を出してきた日本電気株式会社(NEC)事業イノベーション戦略本部ビジネスデザインセンター エキスパートマネージャー山岡和彦さんだ。

 実は、この「共創」という言葉自体も、NECが2006年に登録商標した造語だ。山岡さんによると、NECでは、1959年に発足したコンピューターのユーザー会などで、会社の枠を超えた取り組みが自主的に行われてきた経緯があり「共に創ること」の長い歴史があるということだ。

 近年、山岡さんが関わった主なプロジェクトには次のようなものがある。

「四日市あすなろう鉄道&NEC」共創プロジェクト(地方鉄道継続支援)

四日市あすなろう鉄道イベントでのシーン

四日市あすなろう鉄道イベントでのシーン

行政やNPOとともに「短冊列車」(走る列車内で乗客とのワークショップ開催を通じて地域の声収集)、「あすなロボ実証実験」(電車内にコミュニケーション型ロボットを置き乗客の反応検証)などを実施し、存続が危ぶまれる地域鉄道の継続モデルを設計。

 

宮城県亘理町(東日本大震災直後)「仮設住宅でのコミュニティ形成を支援」

一時的な避難先である仮説住宅でのコミュニティ形成支援し情報格差解消。さらに新しいまちづくり支援を目的に、テレビを活用した「まちづくりコミュニティ形成支援システム(愛称:絆チャンネル)」のテストを実施。

「アルゼンチン共和国ティグレ市の2030年ビジョン共創プロジェクト」

アルゼンチン共和国の現地を訪問し、市役所職員にヒアリング。ビジョン素案作成の後ワークショップを経て、2030年の同市のビジョンを作成。

羽田空港国際線旅客ターミナルのフライトインフォメーションシステムなど空港関係プロジェクト

国際線の出発・到着の情報を伝えるFIS(フライトインフォメーションシステム)構築において、フォントや背景色、設置する位置や角度にもこだわり、人にやさしいユニバーサルデザインを実現。

 などがそうだ。鉄道事業や2030年の海外都市のビジョンなど、NECの本業とはすぐに結び付かない活動もあるような気がするが、どのような経緯でこういった活動に至ったのか、またこのようなプロジェクトを企業内で実施する際のコツのようなものを山岡さんに聞いてみた。

* * *

――企業が社会的な課題解決に取り組みに参加することは、必要だという認識があるものの、実際に社員が参加するとなると会社上層部がその意義を認めてくれないという声を聞きます。

いえ、多くの企業トップは「共創」の重要性を認識しているはずですよ。弊社のトップは共創活動に積極的で、こんな専用施設も作ってくれたのです(インタビューはNEC本社最上階の『共創型ワークショップスペース』で実施)。そして、現場でも共創活動の必要性を認識している。ただ、事業部門は現状のビジネスに責任を負っていますから、売上に直結することが見えにくいことには慎重にならざるを得ませんし当然のことだと思います。そこで、その部分を事業イノベーション戦略本部が担っているのだと思います。

――共創活動の必要性とは?

たとえば弊社はメイン事業領域を「社会課題の解決」としています。しかし、「こんにちは。社会課題の解決に来ました。この製品を買ってください」なんてあり得ないですよね(笑)。ある地域の社会課題の解決のためには、その地域に深く入り込んで、ビジネス抜きで何が課題なのかを一生懸命探すところからはじめなくてはならない。そして、地域の人たちと課題を共有できて、ようやくスタートできるものでしょう。

――時間がかかるわけですね。

共創活動からビジネスを生み出すプロジェクトの多くは長期化する。なので、直近の数字を追いかける部門からは「時間がかかるなあ」と見られるでしょう。でもそうやって、地域に思い入れを持って入り込まないと理解を得られません。だんだん地域に思い入れができて、そこに引っ越してしまう人もいるぐらいです。その「個としての思い」と「会社組織としてのビジネス」の両立のさせ方がおもしろいといえばおもしろいし、経験のない人には理解されづらい面でもあるのかもしれません。

* * *

山岡氏は1984年㈱日本電気デザインセンターに入社後、デザイン・商品企画部門でキャリアを重ねつつ、1988年に地元の埼玉デザイン協議会(現在は公益社団法人化)に個人として参加したことが、はじめての「共創」だったと述べる。

――埼玉デザイン協議会はデザイナーのための組織ですか?

いえ、埼玉デザイン協議会にはデザイナーだけでなく、主婦や個人事業主などいろんな人が参加していて、今の「共創」のスタイルに近いものでした。そこでのやり取りやアイデアが「あ、これは会社のプロジェクトにも応用できるな」ということが多かった。いい意味の「公私混同」ですね(笑)。

――共創活動を進めていく時、大きな組織を動かすのは大変ではないかと思います。山岡さんなりの秘訣を何か教えて下さい。

4つあります。一つ目は、「ストーリーづくり」です。会社の理念や中期計画から共創活動に連動する、あるいは示唆する部分を抜き出し、「ここに書いてあるとおり共創活動をすすめないといけませんね」と理論武装します。さらにプロジェクトをすすめていく時に「自社の壁」に突き当たったときは、「NECの人財哲学に基づいて自分は行動しています」と自分に言い聞かせて乗り切ります。

※人財哲学:2016年4月に、顧客起点で常に行動し、社会価値を創造し続けることのできる従業員の育成と組織風土・文化の醸成をめざして「人財哲学」を制定。

2つ目は、「人材を巻き込む」ことです。力になってくれそうな人をふだんからマークして声をかけておく。そして、その人の能力を必要とするプロジェクトがあれば参加するようその所属部署に働きかけます。自分は『起承転結』、それぞれの人材が必要と思います。

――起承転結とは?

自分のようにきっかけづくりが得意な人間は『起』か『承』。しかし、はじめることも大事ですが、活動をちゃんと着地させビジネスにつなげる役目も必要です。つまり、『転結』の人材もいります。色んな役割があっていいと思うのです。

――声をかけても所属部署が人を出すのを拒むことはないのですか?

あります。そこも先ほどの理論武装ですね。「共創活動に取り組む社員を評価する」という文言を探し出して関係各所を説得します。

さらに3つ目。本質的なことですが「自分の主業務でしっかり結果を出すこと」です。主業務で成果を出していると、共創活動に取り組みやすいのは事実です。

4つ目は、「外部から発信」を活用することです。メディアからいつでも取材していただけるように、プロジェクトをしっかり資料化しておきます。また、さまざまなイベントに積極的に参加して認知度を上げ、メディアに積極的に取り上げていただきます。このように、自分たちの共創活動を広報することによって、外から「御社はこんな活動をやっているんですね」と自社に働きかけてもらう。そうしてやりやすくしていく。

自分たちのように、会社に長くいる人間には、プロジェクト経験の引出しが多いので、プロジェクトを推進していくアイデアがあります。そんな人間を共創活動にうまく生かしてほしいですね。

* * *

 地域の課題を解決したいと純粋な思いを抱いて共創活動に携わったとしても「自社の壁」が立ちはだかるときがある。それを乗り越えるには、思いの強さはもちろんだが、ある種の「したたかさ」も必要なのだと感じた。

藤木俊明 Written by
ライター、著者。有限会社ガーデンシティ・プランニング代表取締役。ICT関連から起業、中小企業支援、地方創生などをテーマに執筆活動を展開。著書に「マンガでわかる人工知能 (インプレス)」など。