コンテンツ・ライツビジネスは、ブロックチェーン技術適用の有望分野とみられている。富士通のグループ会社とブロックチェーン・ベンチャーなどは、自動ネイルプリンタで使われるプリントデザインやキャラクターといったコンテンツ流通プラットフォームの実証実験を行っている。コンテンツホルダー(著作物所有者)の権利保護・利益の適正配分のほか、省力化とコストの低減で、ネイルアート市場の拡大も期待できる。このプラットフォームはネイルプリンタに限らず、あらゆるコンテンツビジネスへ応用も可能だという。
都内で5月に開かれた富士通フォーラムでデモが行われた、下地となるジェルネイルを塗って硬化されたツメを自動ネイルプリンタに入れる。プリントデザインを選んでからわずか15秒ほどで、複雑なデザインのネイルアートが完成した。中で動いているのが、ブロックチェーンによるコンテンツ流通プラットフォームだ。
このデモは、ブロックチェーン開発のインディテール(札幌)と富士通ビー・エス・シー(BSC、東京)、自動ネイルプリンタ開発のBIT(同)による実証実験。インディテールは、ビジネスソリューション、ゲームサービス事業を展開する札幌のITベンチャー。近年、ブロックチェーンに注力しており「企業内コミュニケーション活性化サービス『Thanks!』」などを開発。技術集積を目指して「ブロックチェーン北海道イノベーションプログラム(BHIP)」を運営している。BITは、ツメの位置や形を3次元的に認識し、インクジェットプリンタのようにネイルプリントサービス「INAIL(アイネイル)」を開発・提供。富士通の「MetaArc(メタアーク)ベンチャープログラム」に応募し、今回の共同開発に参加した。
デザインやロゴといったコンテンツデータの流通・使用履歴は、すべてブロックチェーンに記録され、コンテンツの不正利用が防止される。また、スマートコントラクトによりコンテツホルダーをはじめ、サービス事業者らプラットフォーム参加者に報酬が自動的に配分されるため、契約管理や利用料の支払いなどの事務作業が大幅に軽減される。
こうした著作物の取引履歴管理は、ブロックチェーンを使わなくても可能だ。しかしブロックチェーンを使うメリットとして、富士通BSCは①コンテンツホルダーは、権利を安全な状態で流通させることができる②サービス提供者は、他社のコンテンツを利用したサービス提供ができる③利用者は、キャラクターやデザインを取り入れた新しい価値体験ができる―ことを挙げる。
富士通BSC経営企画室の小町昂平氏は「内部のデータベース管理者を含め、コンテンツの不正使用や取引履歴の改ざんは困難。スマートコントラクトにより、より透明なプラットフォームの枠組みをつくりやすい」、インディテールの坪井大輔代表は「ブロックチェーンのユースケースとして、クリエイターやユーザーに面白い体験を提供できる。人を介して行うサービスの無人化をスムーズに行うというイメージで、どんなデバイスにも応用できる」と語る。
富士通フォーラムに先立ち、4月に神戸で開かれたイベント「078」では、一般来場者にネイルサービスの体験を実施し、196人(女性69%、男性31%)が利用した。10代以下が25%、20代が30%、30代が19%。「お金を払っても利用したい」と回答した人は82%に上ったという。自動ネイルプリンタのプラットフォームは年度内の商用利用を目指していて、プリクラのように街角で気軽にネイルアートを楽しむ光景が見られるようになるかもしれない。
プラットフォームには、自動ネイルプリンタのほか、3Dプリンタなど利用目的ごとにコミュニティをつくることが可能。コンテンツホルダーや事業者が参加することで、新しいサービスを創造することができる。また、利益配分はコミュニティ内のトークンによって決済することもできる。富士通BSCは「コンテンツを使ったビジネスを展開するスタートアップと協業し、プラットフォームを使ったユースケースの創造、新しいビジネス創出を目指す」としている。