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5G時代の主役『ミリ波』の活用進む~ドローンからの4K非圧縮映像リアルタイム伝送に成功

東京工業大学 工学院 阪口啓教授

東京工業大学 工学院 阪口啓教授

 すでに一部の国ではサービス提供がスタートしている次世代通信規格5G。この5Gにおける新しいチャレンジのひとつは、『ミリ波』と呼ばれる30GHzを超える「高周波数帯」の利用だ。そのミリ波を5Gで活用することを提唱した中心人物が東京工業大学の阪口啓教授だ。

 東京工業大学は「5G-MiEdgeプロジェクト」(総務省と欧州連合から助成を受ける日欧連合プロジェクト)の研究代表機関であり、阪口教授はキーマンとして注目されている気鋭の研究者である。

 阪口教授によると4Gよりも高速・大容量通信が可能な通信規格が必要となったきっかけは、iPhoneの登場だという。4G LTEの技術で携帯電話は十分に使えたが、スマートフォン時代に突入し、トラフィック(通信回線上のデータ量)が爆発的に増加した。そのため新たな通信規格である5Gが必要となったわけだが、そこで阪口教授は長年研究を重ねてきたミリ波を利用することを提唱した。

 ただし、ミリ波には弱点があった。周波数が高いゆえに直進性が高く、障害物に弱い。また空気中の酸素や水分に影響を受け電波が吸収されやすい。こうした特性ゆえに移動体の電波としては不向きと考えられており、一時期、その研究も下火となった。しかし阪口教授は「周波数を10倍にすれば通信容量は1000倍になることはわかっていた」と課題解決をすべく研究を継続。下記の図のようにミリ波の弱点を補いつつ5G通信網として実用性のある仕組みを開発した。(図版は株式会社オロのサイト『ORO』に掲載の図版参考に制作

『Macro BS(Base Station)』により広域をカバーしスマホの位置を特定する。Aさんはが1にいることが認識されると一番近くのミリ波を使った基地局「Small-cell BS」と通信するように制御する
『Macro BS(Base Station)』により広域をカバーしスマホの位置を特定する。Aさんはが1にいることが認識されると一番近くのミリ波を使った基地局「Small-cell BS」と通信するように制御する

ドローン警備、商用化に一歩前進

 阪口教授は、ドローンからの高精細画像をリアルタイムで送信するのにミリ波を活用する取り組みも進めている。現在ドローンからの画像送信は2.4GHzのWi-Fiなどを使ったものが多く、映像の遅延や解像度が低いなどの課題がある。

 ドローンは監視や警備といった分野での活用が期待されている。例えば大規模スタジアムを警備するため、上空からドローンで入場者を空撮、監視し、事故の予兆をつかんだり、不審な行動をするものがいないかを探し出したりする。この場合、おびただしい数の人間の顔や行動を、正確かつ迅速に把握・分析しなくてはならない。警備の分野では人手不足が背景にあるため、こうした監視や解析もAI(人工知能)任せにしてしまいたいのだが、解像度が低ければ低いほど、画像解析の精度は落ち、解析にかかる時間も増加する。より高精細な映像がリアルタイムで伝送されてくれば、効率が上がるのだが、現時点ではドローンとの間の無線通信がボトルネックになっている。そこでミリ波によって高精細映像を伝送することが期待されたが、電波の減衰が大きいため通信距離に課題があった。

実証実験イメージ
実証実験イメージ(図版クリックで拡大)

 セコム株式会社と東京工業大学は、こうした課題を解決するため「SOFTechコンソーシアム (科学技術振興機構・産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラムのプロジェクトである社会活動継続技術共創コンソーシアム)」の枠組みで2018年から共同研究を続けてきた。実証実験では、上空100mのドローンが空撮した高精細な映像を圧縮しない大容量データのまま地上に遅滞なく伝送することに成功した。(その実験の模様はこちら

 この実証事件では、ドローンに搭載するレンズアンテナを用いたミリ波無線通信装置を新たに開発。レンズアンテナは電波を発射する角度を絞ることで電波の到達距離を伸ばすことができるため、ミリ波の伝送に向いているのだが、従来からあるものは、その大きさや重量の問題でドローンへの搭載が難しかった。今回、インテル社の協力を得て、同社が開発した小型軽量のレンズアンテナを利用することでドローンへの搭載が可能となった。

4K非圧縮画像の高い認識精度
4K非圧縮画像の高い認識精度(図版クリックで拡大)

 今回の取材では、圧縮した映像の顔写真群と、4K非圧縮映像の顔写真群をAIが認識していく速度を比較するデモを見た。圧倒的に4K非圧縮映像の顔写真群を認識する精度が高く、速度も早い(多数の顔を同時に認識可能)。

 阪口教授によれば、今回の実証実験の成功を受けて、ドローンによる広域警備システムの商用化は近づいたという。

藤木俊明 Written by
ライター、著者。有限会社ガーデンシティ・プランニング代表取締役。ICT関連から起業、中小企業支援、地方創生などをテーマに執筆活動を展開。著書に「マンガでわかる人工知能 (インプレス)」など。