ここ数年、交通インフラの分野では、テクノロジーを活用したスタートアップの誕生が相次いでおり、それら新興勢力によって移動手段は大きく様変わりをしつつある。
シェアリングライドサービスを提供するウーバー(Uber)の誕生により、移動方法の選択肢が増え、移動コストが削減された。より近距離の移動では、乗り捨て可能な電動式のキックボードを提供する米国のLIME社などの誕生で、ラストワンマイルの移動の利便性が向上しつつある。そして自動運転車の実用化へ向けた取り組みが進んでいる。
「シェアリング」や「自動化」。こういったキーワードを伴う交通インフラ系スタートアップの登場で、大きく変化するのは移動シーンだけではない。移動のその先にある不動産業界も、こうした変化に対応すべく、大きな変革を迫られている。
不動産業界へのインパクト――賃料プレミアム
不動産業界にどのような変化が訪れるのか。一例をあげよう。不動産の賃貸物件の賃料を決める要素としてさまざまなものが存在するが、大きな要素としては「駅からの距離」がある。「近ければ高く、遠ければ安い」。現在はこれが常識だが、自動運転が普及することによって、この常識が変わる可能性がある。自動運転がもたらす最大のインパクトは、運転者が不要になることによる車での移動コストの大幅な減少だ。それによって、日常生活での移動手段の第一候補が多様化し、必ずしも「駅近」物件が良いわけではなくなる。そうなると、鉄道駅など公共交通機関の乗り場へのアクセスの良し悪しによる不動産価格の差は今後縮小すると予測されている。
米国の投資運用会社ARK Invest Management社の2017年時点の調査によると、自動運転によるタクシーの1マイル(約1609メートル)あたりの料金は約35セントUSDを下回ると予想され、従来のタクシー料金の10分の1にまで縮小する。現在のタクシーやライドシェアより安くなることはもちろん、自家用車よりも安く、現在の電車やバスの運賃と比べても同レベルのコストで移動が可能になる。また、自動運転ゆえに24時間運行が可能で、深夜料金や終電なども気にする必要がなく、時間と場所の制約が一気になくなる。
こうした移動コストの縮小により、公共交通の利便性による不動産の価格プレミアが縮小する現象はすでに現れている。MetLife Investment Managementによる2018年の調査レポート「On the Road Again: How Advances in Transportation are Shaping the Future of Real Estate」によるとUberなどのシェアリングサービスが普及しているサンフランシスコでは、駅からの距離による賃貸住宅の賃料差が15%に低下した。こうした変化に対応するため、今後不動産業界は従来の概念にとらわれない賃料の設定を考える必要が出てくることはもちろん、都市や建築物の形態や開発方法までも考え直す必要があるだろう。
例えば将来はウォーカビリティ(Walkability)の高い都心地区に賃料プレミアムがつきやすくなると予測されている。ウォーカビリティの高い街とは日常生活において歩行での移動を前提とした街であり、ほどよい人口密度、歩行者に優しいデザイン、土地利用の多様性などが必須要素として挙げられる。何車線もある幅の広い道路、広大な駐車場など現在の車社会が作り出した都市とは全く異なった都市が交通系インフラの進化により現れることになることだろう。
不動産業界へのインパクト―― 駐車スペース
前述のように都市の姿が変化する中で、不動産業界へのもうひとつ大きなインパクトして駐車スペースの削減がある。現在、不動産開発を行う際には、建物の用途と延べ面積に応じて駐車スペースの設置が義務になっている場合も多い。この駐車スペースが自動運転によって不要となると言われている。極端な話、完全な自動運転が実現し、エネルギー補給も車に搭載されたソーラーパネルから行うとすれば、24時間走行し続けることが可能となり、乗り降りのための乗車スペースさえあれば大規模な駐車スペースは不要となる。World Economic Forumが2018年6月にボストンコンサルティンググループと共に行なった自動運転に関する調査「Reshaping Urban Mobility with Autonomous Vehicles Lessons from the City of Boston」によると、将来、ボストン全域に置いて駐車スペースが48%も減少すると予測されている。現在、多くの大都市の都心部では用地が逼迫しており開発の余地が限られているが、駐車場がなくなり他の用途に活用できることになるなら、まちづくりを考え直すことができる。これは不動産会社にとってもメリットであり、貴重な用地面積を駐車場以外の用途に使用できる。そして不動産価値の向上も期待でき、不動産収益の増加もあり得るということだ。
さらに同調査によると、将来、ボストン全域に置いて駐車スペースが48%も減少すると予測されている。現在、多くの大都市の都心部では用地が逼迫しており開発の余地が限られているが、駐車場がなくなり他の用途に活用できることになるなら、まちづくりを考え直すことができる。これは不動産会社にとってもメリットであり、貴重な用地面積を駐車場以外の用途に使用できる。そして使い方によっては不動産価値の向上も期待でき、不動産収益の増加もあり得るということだ。
このように異なる業界がテクノロジーで大きく変革すると、他業界にも大きな影響が及ぶようになってきている。テクノロジーによってさまざまなモノやコトが繋がるこの時代において固定概念にとらわれない発想と変化への対応能力が必要になってくるであろう。自動運転が実際にどんな影響を不動産業界にもたらすかを注視しつつ、いち早く対応を進めることが肝要だろう。