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高齢者の「死ぬまでにしたいこと」をかなえるVR、うつ病や孤独にも効果

米フロリダ州マイアミのリトルハバナで、バーチャルリアリティー(VR)を体験するニディア・シルバさん(2019年7月26日撮影)。(c)RHONA WISE / AFP

米フロリダ州マイアミのリトルハバナで、バーチャルリアリティー(VR)を体験するニディア・シルバさん(2019年7月26日撮影)。(c)RHONA WISE / AFP

【AFP=時事】米フロリダ州マイアミに住むニディア・シルバ(Nidia Silva)さん(78)は、バーチャルリアリティー(VR)でイルカと一緒に泳ぐという夢をかなえることができた。このVRゴーグルは、高齢者のうつ病や孤独を癒やす取り組みを行っているマイアミのNGO「イコーリティーラボ(Equality Lab)」が配布したものだ。

 シルバさんはゴーグルをつけ、目に見えないイルカをなでているかのように空中で優しく手を動かした。「別世界に連れて行ってくれる。とても気持ちが落ち着いた」

 19年前に米国に移住したシルバさんは、マイアミのリトルハバナ(Little Havana)にあるキューバ系住民の憩いの場ドミノ(Domino)公園に座り、「とても興奮した」と語った。まるでキューバの海で泳いでいるようだったという。

 デジタル・ヒューマニティーズの専門家であるフランス人のアレクサンドラ・イワノビッチ(Alexandra Ivanovitch)氏は、キューバ出身の高齢者をVRでハバナのマレコン(Malecon)通りや宇宙、海底、山の頂上などに連れて行っている。

 イワノビッチ氏によるプロジェクト「VRジニー(VR Genie)」は高齢者を「孤独や社会的孤立」から救う狙いがあり、特に独り暮らしや介護施設に暮らしていてあまりやることがない高齢者を対象としている。イワノビッチ氏は「私たちはVRによって高齢者の願いをかなえたいと思っている」と説明した。

 プロジェクトの対象者は、肉体的または財政的に自力で旅行することができない人が多いが、VRによって死ぬまでにやっておきたいことリストに載せている場所など今まで行ったことがない所に行くことができるという。

 VRジニーを運営するイコーリティーラボは、マイアミデイド(Miami-Dade)郡による「エイジ・フレンドリー・イニシアチブ(Age Friendly Initiative)」の少額助成金を受けている。イワノビッチ氏は大規模な「夢の図書館」の準備ができ次第、介護施設にVRヘルメットを配布したいと考えている。

■メンタルヘルスの改善に効果

 最近の研究では、VRはうつ病や不安神経症、心的外傷後ストレス障害(PTSD)やその他メンタルヘルス改善の一助となることが示されている。

 マイアミ大学(University of Miami)の神経心理学者アルドリッチ・チャン(Aldrich Chan)氏は「画像による誘導や瞑想(めいそう)などが、認知力のような事柄に対して非常に有益であることが分かっている。また、直接の行動的介入も個人にとって非常に役立つ」と説明する。

 チャン氏はイコーリティーラボで顧問をしており、高齢者のケアにおけるVR使用の潜在的効果、特に高齢者の最後の願いをかなえることの効果について定量化を進めている。

 カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の研究チームは、うつ病の一種でさまざまな事柄に喜びや関心をもてなくなる「無快感症」の治療にVRを使う研究を行っている。  精神医学の専門家ミシェル・クラスク(Michelle Craske)氏のチームは、無快感症の治療と幸福感を高めるため、VRや瞑想によって患者にプラスの体験をさせることに重点的に取り組んでいる。

 学術誌「ジャーナル・オブ・コンサルティング・アンド・クリニカル・サイコロジー(Journal of Consulting and Clinical Psychology)」に今年掲載されたクラスク氏の研究によると、プラスの体験をする治療を受けた人は、陰性症状に重きを置く通常の治療を受けた人に比べ、うつ病、不安神経症、ストレスレベルが低いことが分かった。【翻訳編集】 AFPBB News|使用条件