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多拠点生活の移動コストも定額化〜全日空とADDressが航空券定額制サービス実証実験を開始

宮崎県日南市のADDress拠点(ADDressプレスリリースより)

宮崎県日南市のADDress拠点(ADDressプレスリリースより)

 モノからコトへ消費が変わる中、これまでの概念を覆す自由な暮らし方をする人が増えつつある。国内で1か所に定住せず、生活拠点を複数持つ「多拠点生活」もそのひとつだ。

 株式会社アドレス(東京都千代田区、以下「ADDress」)は、全国に登録されたさまざまな場所に定額で自由に住むことができる月額制の「多拠点コリビング(co-living)サービス」を展開している。空き家や別荘をリノベーションし、会員は月額4万円の定額で登録拠点を自由に利用することができるようにするサービスだ。各拠点では、個室を確保しつつも、シェアハウスのようにリビング・キッチンなどを共有して生活をする。敷金・礼金や保証金など賃貸住宅につきものの諸費用は不要で、親族やパートナー1名まで追加費用なしで利用可能なので夫婦やカップルで移動しながら暮らすこともできる。また、光熱費、Wi-Fi、共有の家具やアメニティの利用、共有スペースの清掃も料金に含まれる。

 ADDressは、人が拠点を移動しながら暮らすことにより、その地域で新たなコミュニティに出会える機会を提要している。これは「関係人口」(※)を増やすサービスとしても注目を集めている。完全な移住は難しいが、関係人口の増加で、地域を活性化することができる。多拠点生活を受け入れる側にもメリットがある試みだ。

(※)移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域や地域の人々と多様に関わる人々のこと

 敷金・礼金無しの多拠点生活でつぎなる課題は、移動にかかる交通費だ。夏は涼しい北海道で、冬は暖かな南国で。といってもその移動にかかる費用負担は大きい。そんな課題の解決を図るべく、2020年1月19日、ADDressと​ANAホールディングス株式会社(東京都港区「ANAHD」)は、多拠点生活推進と地域活性化をさらに活発化させる意図で、ADDress会員向けに航空券定額制サービスを提供する実証実験の開始を発表した。

ADDressとANAの提携サービス(ADDressプレスリリースより)
ADDressとANAの提携サービス(ADDressプレスリリースより)

 今回の実証実験は、ADDress会員が月額3万円の追加料金を支払うと、ANA指定路線(羽田 ― 新千歳/鳥取/高松/徳島/福岡/大分/熊本/宮崎/鹿児島)の指定便に限り、月2往復まで搭乗可能となるというものだ。実験の期間は2020年1月31日から3月31日までで、対象人数は50人。利用にはADDress会員向けの専用サイトより予約が必要となる。

 ADDressが考える「都市と地方の複数の拠点で生活をしてみたい」「リモートワークをしながら各地の自然とふれあいたい」「その土地で暮らす人たちと交流したい」といったニーズに対応する新しいライフスタイルの実現のために負担となるのが移動費用だが、それをサブスクリプション(定額) 化して組み込んでいく試みといえよう。

 ADDressは、全国各地への航空ネットワークをもつ ANAHDとの連携によって実現した移動コストの定額化と多拠点生活プラットフォームの組み合わせによって、日本全国にコミュニティを築くMaaS(Mobility as a Service)経済圏の創出を目指すとしている。

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 複数の生活拠点を持つ「デュアルライフ」や、定まった住所を持たずホテルやゲストハウスなどを転々と移動して暮らす「アドレスホッパー」などという人が実際に存在する世の中になった。日本で大半の人々が定住していたのは、「それが当然だから」という世間の常識に従っていたことと、賃貸や引越し、移動にかかる手続きの煩雑さや、コストの問題も大きかったのではないだろうか。安価、定額。かつ申込みや予約など煩雑な手続きなしで手軽に違った街に住めるなら、明日にでも今の家を飛び出したいという人は結構いるのではないだろうか。ADDressとANAHDの今回の取り組みは、その入口となる試みになるのだろう。

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