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2020年春 公道でのレベル3自動運転が可能に 法整備の到達点と経緯は?

自動運転関連の法整備について解説する明治大学専門職大学院法務研究科専任教授で、自動運転社会総合研究所・前所長の中山幸二氏

自動運転関連の法整備について解説する明治大学専門職大学院法務研究科専任教授で、自動運転社会総合研究所・前所長の中山幸二氏

NTTデータなどによる自動運転車両
NTTデータなどによる自動運転車両の実証実験にて

 現在、自動車メーカーをはじめとする多くの企業が自動運転の技術開発にしのぎを削っている。しかし、技術が完成しても、関連法規の整備が進まなければ、自動運転車は実用化されない。これまで、人(運転手)が操縦することを前提として道路交通に関する法律はできていた。2013年以降、この前提について再考する機運が高まり、自動運転を容認する方向で検討が進められてきた。日本の法整備はどういった状況にあるのだろうか。

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 2020年1月15日から17日に東京ビッグサイトで「第12回オートモーティブワールド」が開催され、明治大学専門職大学院法務研究科専任教授で自動運転社会総合研究所・前所長の中山幸二氏による、『自動運転をめぐる法整備の現在』と題する講演が行われた。

 中山氏はまず、自動運転をめぐる状況は、当初の「規制」から、実証実験を「黙認」する段階へと移り、現在は「推進」(法的許容)する段階にあると持論を展開。「規制」から「黙認」へと変化した最初のきっかけは、自動運転の専門家らが多数参加し2013年10月に開催された「第20回ITS世界会議東京2013」にあったという。

「それまでは、テレビで自動運転車を使った手放し運転の実験の様子が放映されると、メーカーは警察や国交省などからこっぴどく叱れたものでした。国際条約や法律の観点から、たとえ実験であっても手放し運転は認められなかったわけです。ところが(第20回ITS世界会議東京2013開催後の)2013年11月になると、安倍首相がトヨタやホンダ、日産の自動運転車両に乗り、国会議事堂の周りを走るというデモンストレーションを実施。ここから国の方針が大きく変化していったのです」。

 2014年から2015年には、「ウィーン道路交通条約」など国際的な道路交通条約を見直す動きが出始め、自動運転を合法化すべく条文の見直しが行われた。日本国内においても、内閣府が自動運転技術の開発を国家戦略に定めた。

 さらに2015年10月には、警察庁が技術者や法律学者らを集め「自動走行の制度的課題等に関する調査検討委員会」を設置。同委員会は、道路交通法改正のための課題点を洗い出したほか、「自動走行システムに関する公道実証実験のためのガイドライン」を示した。

「これにより日本の公道で大手を振って自動運転車の実証実験ができるようになりました。全国津々浦々で100を超える実証実験が行われるようになっていったのです」(中山氏)。

 こうした中、自動運転をめぐる状況は「黙認」から「推進」へと移る。内閣府が2018年4月に「自動運転に係る制度整備大綱」を発表。国際的な道路交通条約の動向を注視しつつ、日本国内の法制度(主に道路交通法、道路運送車両法)のあり方などを検討する方針を政府が示したことで、法整備に拍車がかかっていったという。

 2018年12月には警察庁が、自動運転システムを「自動運行装置」と定義し、同装置を使って自動車を動かす行為を「運転」と規定するなどした「道路交通法改正試案」を発表。2019年3月には国土交通省が、自動運行装置を保安基準対象に加えた「道路運送車両法の一部を改正する法律案」を発表した。2019年5月には衆参両院で両改正案が可決・成立し、今年(2020年)4月頃から施行される見込みとなっている。

平成28年12月7日内閣官房IT総合戦略室資料より
平成28年12月7日内閣官房IT総合戦略室資料より

 両改正案が施行されると、速度や天候など一定の条件のもとでは、自動運転システムが運転操縦を担い、緊急時などに運転者が運転操縦を引き継ぐ「レベル3(※)」の自動運転が可能となる。中山氏は、両改正案の施行を「法整備の現在の到達点」とし、「レベル3の自動運転車を販売できるようになり、いよいよ公道を実験ではなく、実際に走れるようになるだろう」と期待をにじませた。

※米国自動車技術会(SAE)の定義に基づいた運転自動化レベル表記。5段階で示され、レベル5が完全自動化。レベル3では運転主体が自動運転システム側となり、作動継続が困難な場合は、運転者がシステムの介入要求に適切に応対する。

ロボットやAIの法的責任をどう考えるのか?

 中山氏は、道路交通法と道路運送車両法が改正された経緯とともに、自動運転車で交通事故が起きた場合の法的責任の変容についても触れた。

 従来の自動車の運転では、人間であるドライバーが周囲を見て状況を「認知」し、次の状況を「判断」したり「操作」したりすることで成り立っている。しかし、運転の自動化が進むと、「認知」「予測」「操作」の3要素がドライバーからシステム側に徐々に移っていくことが予測される。具体的には、ロボットやAI(人工知能)が自ら情報を収集・分析し判断するようになる。

 こうした状況を踏まえ、将来的には、「自然人」「法人」に加え、民事責任を考える上でロボットやAIなどを対象とする「第三の法的責任主体」が必要になるのではないかと中山氏はいう。

 中山氏はこうした意見を2015年に発表したが当時はその意見は排斥された。しかし、ここ2、3年で状況が変わりつつあるという。

「いわゆる法哲学の世界では、ロボットやAIに公的主体性や人格を認める議論が盛んになっています。また刑法学の世界でも自動運転車両を含めてAIに刑事責任を負わせるかどうかというところが盛んに議論されはじめています」。

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 自動運転車で交通事故が起きたときの法的責任を誰が負うのかといった問題だけでなく、自動運転システムのハッキングに対するサイバーセキュリティの責任問題など、まだまだ法整備の課題は残っている。

 こうした課題解決のために、中山氏は技術者と法学者を巻き込みながら、模擬の自動運転車の事故事例を設定。原告側と被告側にわかれ法的責任の追及のあり方を模索する取り組みを続けている。自動運転をめぐる技術開発と法整備の両輪が巧くかみ合っていくことを期待する。

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有限会社ガーデンシティ・プランニングにてライティングとディレクションを担当。ICT関連や街づくり関連をテーマにしたコンテンツ制作を中心に活動する。