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人の「集合知」を活用 ドローンとAIで遭難者を全自動捜索 

株式会社ロックガレッジ代表取締役の岩倉大輔氏

株式会社ロックガレッジ代表取締役の岩倉大輔氏

 登山やハイキングなどの人気が高まる一方で、山岳遭難の発生件数は年々増加している。遭難者の生存率を左右する「72時間以内」の発見を目指したさまざまな捜索方法が模索される中で、近年注目を集めているのがドローンを使った捜索システムの開発だ。ドローンを使うことで、ヘリコプターなど大がかりな捜索方法を使わずに広範囲の捜索ができる。さらにAI(人工知能)と組み合わせることで、ドローン捜索システムの“完全自動化”を目指しているのが、2018年創業のドローンシステム開発会社、株式会社ロックガレッジ(茨城県古河市)だ。

「完全自動のドローン捜索システムを目指す」と話す岩倉氏
「完全自動のドローン捜索システムを目指す」と話す岩倉氏

 同社が、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と開発した「AI・クラウドソーシング・ハイブリッド型広域人命捜索システム」(※)は、ドローンの撮影画像からAIが遭難者を探す。さらにAIの判断を補うために一般市民の「集合知」を活用するというユニークな仕組みも取り入れている。同社代表取締役の岩倉大輔氏に、「AI・クラウドソーシング・ハイブリッド型広域人命捜索システム」について聞いた。

※NEDOプロジェクト 事業名:次世代人工知能・ロボット中核技術開発/次世代人工知能技術分野/AI・クラウドソーシング・ハイブリッド型広域人命捜索システム(実施期間:2018年度〜2019年度)

ハイブリッドである理由

「AI・クラウドソーシング・ハイブリッド型広域人命捜索システム」とはどのような捜索システムなのか。

 岩倉氏によると、現在ドローンによる捜索の多くは、遭難者を捜すためにドローンを飛ばし、ドローンが撮影した映像や写真から捜索関係者が目視で遭難者を探すものとなっている。しかし、大量のデータを人力で解析しているうち、タイムリミットの「72時間」をオーバーしてしまう可能性が高い。そこで岩倉氏らは、ドローンから送られてくる大量の画像をAIが自動解析し、「人影が映っている(であろう)画像」を抽出し、マップ上に示してくれるシステムを開発した。これにより捜索効率が大きく上昇する可能性が高いという。

 しかし現時点では、まだAIが「人か」「人でないか」の判断を迷うことも多い。そこでAIが判断に迷う画像は、クラウドソーシングを活用し一般市民の有志に「人である」「人ではない」といった選別を手伝ってもらう。

「一般市民の集合知のデータを繰り返し学習させることで、AIの精度を向上させる狙いもあります。最終的には、『ボタンを押せば、ドローンが飛び立ち、遭難者を発見し帰ってくる』といった完全自動化された捜索システムの実現を目指しています」(岩倉氏)。

 実際に遭難事故が起きたときには、捜索前に一度ドローンを飛ばして地表が見えない深い森や林のような場所をスクリーニング(選別)した後、再度ドローンを飛ばし、本捜索を行う。

「川や沢などのひらけた場所をドローンが探し、木などが生い茂った場所を消防関係者が探すといった役割分担が可能になり、より効率的に遭難者を捜せるようになると考えています」。

「AI・クラウドソーシング・ハイブリッド型広域人命捜索システム」のシステム構成
「AI・クラウドソーシング・ハイブリッド型広域人命捜索システム」のシステム構成

 ちなみにこのシステムの用途は、山岳遭難者の捜索だけに限らない。AIに学習させるデータを変えることでいろいろ対応できるため、例えば海難事故や獣害検知などさまざまな用途で活用可能。実際、官公庁や自治体、消防、防犯関係など多方面から実用化に向けた相談が寄せられているとのことだ。

誰でも遭難者の捜索に貢献

「AI・クラウドソーシング・ハイブリッド型広域人命捜索システム」の開発プロセスでおもしろいのが、市民の集合知を活用するための実証実験(体験授業)を昨年(2019年)、神奈川県二宮町にある2つの中学校(二宮西中、二宮中)の生徒に参加してもらい実施したことだ。

実証実験の作業画面。参加者は「明らかに人」「人のように見える」「人のように見えない」「明らかに人ではない」の4項目から選ぶ
実証実験の作業画面。参加者は「明らかに人」「人のように見える」「人のように見えない」「明らかに人ではない」の4項目から選ぶ

 実証実験では、事前に用意した「人影のようなものが写った画像」を大量にタブレット端末に表示し、「人か」「人でないか」を中学生たちに判断してもらったという。

「中学生相手に体験授業を実施した理由としては、この作業が誰でも簡単にできるということ、そして誰でも遭難者の捜索に貢献できることを知ってもらいたかったためです」。

 実証実験を行った結果、「集合知を集めるには、参加者の集中力を切らさないための何らかの工夫が必要だとわかった」と岩倉氏は述べる。

「単純作業を行うときに感じる労力は子どもも大人もそんなに変わりません。やはりやりがいや楽しさを感じる要素を作らないと長時間作業を手伝ってもらうのは難しい。ポイントが付与されたり、ランキングが付いたり、ゲーム性のある要素を作り込むことも、今後は必要になってくるかもしれません」。

ドローン業界の“潮目”が変わった

 ドローンシステム開発の最前線にいる岩倉氏に、ドローンの産業利用の現状と課題も聞いた。

 岩倉氏はドローン産業利用のトレンドとして、「ルールの厳格化」を挙げた。ドローン利用のルールが厳格化したため、これまでの雨後の竹の子のようにスタートアップ企業が登場していた段階を過ぎ、「しっかりと社会に受け入れられるようなものを作った企業だけが生き残るフェイズに移行した」という。

 例えばドローン捜索システムを現場に提供するにしても、「今後は現状のルールをきちんと学び、ルールから逸脱しないシステムを構築し提供していく必要がある」と岩倉氏は表情を引き締めた。

庄司健一 Written by
有限会社ガーデンシティ・プランニングにてライティングとディレクションを担当。ICT関連や街づくり関連をテーマにしたコンテンツ制作を中心に活動する。