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日本の環境スタートアップは今後どうなる 「環境スタートアップ大賞」授賞式行われる

大賞受賞のピリカ小嶌氏(左)と事業構想賞のWOTA前田氏(右)中央スクリーンにはオンラインで挨拶を述べた小泉環境大臣(写真はすべてオンライン中継の画面キャプチャー) 

大賞受賞のピリカ小嶌氏(左)と事業構想賞のWOTA前田氏(右)中央スクリーンにはオンラインで挨拶を述べた小泉環境大臣(写真はすべてオンライン中継の画面キャプチャー) 

 “環境”と“ビジネス”が同時に語られる場面が増えてきた。環境省が新設した「環境スタートアップ大賞」もこうした世の流れに沿った動きのひとつだ。環境分野のスタートアップを支援するために設けられたこの賞には、さまざまな分野のスタートアップ81社からの応募があった。その中から選ばれ、大臣賞を授与されたのは株式会社ピリカ(東京都渋谷区)だ。また、今後の事業成長が期待されるスタートアップに贈られる事業構想賞はWOTA株式会社(東京都豊島区)が受賞した。

 この大賞の授賞式、及び環境関連スタートアップによるピッチなどを行うイベント「Green Startup Pitch and Conference(環境省 CIC Tokyoがそれぞれ同会場にて開催)」が3月17日に虎ノ門ヒルズビジネスタワー内のCIC Tokyo で行なわれた。

株式会社ピリカ 代表取締役 小嶌不二夫氏
株式会社ピリカ代表取締役
 小嶌不二夫氏

 表彰式に先立ち、受賞の2社がそれぞれ事業を紹介するピッチを行った。大賞の株式会社ピリカ代表取締役の小嶌不二夫氏は、今や世界108カ国で利用されているごみ拾いSNS「ピリカ」、街路のポイ捨てなどを調査・可視化する「タカノメ」、マイクロプラスチックの調査を従来の手法と比較すると安価かつ手軽に行える「アルバトロス」など同社の基幹サービスを紹介した。どれも「安くて、簡単で、面白い」(小嶌氏)ものでありながら、AIの画像解析による省力化や、集めたデータの解析を次のビジネスつなげるなど、これまでの環境問題に取り組んできたNPOや研究者にはなかった手法や視点が取り入れられているところに、スタートアップらしさがうかがえた。

WOTAの水処理技術は災害時にも活用された(左)代表取締役社長CEO前田瑶介氏(右)
WOTAの水処理技術は災害時にも活用された(左)代表取締役社長CEO前田瑶介氏(右)

 事業構想賞を受けたWOTA株式会社は、水処理を事業の中核としている。同社が開発した自立分散型の水循環システムを使えば、上下水道のない場所でもシャワーや手洗いの水利用が繰り返し可能となる。災害時、避難所でのシャワーや、コロナ対策として商業施設の入口に設置された手洗器など、同社のシステムはすでに広く社会で活用の実績がある。ピッチを行った代表取締役社長CEO前田瑶介氏によると、「(汚水など)水の処理技術は極めて属人的」なのだという。微生物を使い、水処理を行うノウハウは、これまで特定の人物に経験値として蓄積されてきた。その知識などをテクノロジーを用いて機械化、自動化した。同社は水の利用に関しての制約を無くすことで、災害支援など社会貢献を行い、同時に新たな事業領域も開拓している。

* * *

 環境とスタートアップの組み合わせは、他の分野に比べると歴史が浅い。これまで環境分野スタートアップといえば、日本では資源、エネルギー分野での起業が目立つ程度だった。海外で起業例の多い人工肉、培養肉など代替タンパクを手掛けるスタートアップは、エネルギーの効率的な利用、生物保護など環境保護を起業のモチベーションとしている例が多いが、こうした企業は今のところ「フードテック」と分類されている。

 環境保全課題の中には、生物多様性や気候変動などの問題に対する取り組みがあるが、こうした取り組みでは、成果が現れるまで長い時間がかかり、効果測定も難しい。さらに他の分野とは異なりスタートアップの層も薄く、歴史も浅いためIPOなどエクジットの先例も少なく、資金提供側としても資金回収のイメージがつかめない。ゆえにこの分野に積極的というVCや投資家はこれまで多くはなかった。大賞を受賞したピリカの小嶌氏もスタートアップとしてやっていくなら、「ゲームでも作ることを考えたら」と周辺からアドバイスを受けたと話していた。つまり清掃活動や調査・研究など環境保全活動の基礎になる部分の活動は、マネタイズにつながるようには見えなかった。

 しかし、同社が調査し、可視化したゴミのポイ捨てデータやマイクロプラスチックの排出データは、社会の目が環境に向き始めた今、あらたな価値を生みつつある。社会や環境に配慮していることを指標として行われるESG投資などがより盛んになれば、既存の大企業も環境保全に無関心ではいられなくなる。「ポイ捨てされたゴミが自社製品である」「マイクロプラスチックの主な排出源が自社と関連がある」などとなれば、急ぎ対策が必要だ。

 少し前まで大企業が環境の保全に関わるのは社会貢献のためだった。それが今や義務となり、業務として社内の優先度が高まっている。この変化が投資基準のモノサシを変えれば、環境スタートアップのエコシステムは今後充実したものになるかもしれない。「その事業が本当に環境保全につながるのか」を検証し、投資基準のモノサシのひとつとする必要があるなど難しい課題も多いが、成長が期待される分野だ。

Written by
朝日新聞社にてデジタルメディア全般を手掛ける。「kotobank.jp」の創設。「asahi.com(現朝日新聞デジタル)」編集長を経て、朝日新聞出版にて「dot.(現AERAdot.)」を立ち上げ、統括。現在は「DG Lab Haus」編集長。