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同病の人がつながる“闘病SNS” 社会課題解決型のビジネスで世界を視野に

株式会社 DayRoomは「闘病生活を楽しめる社会」を目指している(画像はイメージ)

株式会社 DayRoomは「闘病生活を楽しめる社会」を目指している(画像はイメージ)

 闘病生活は、多く人にとって辛いものだ。病気そのものによる身体的苦痛はもちろん、生活の不安や孤独感などの精神的苦痛を感じる人も多い。またどの病院に行けば、適切な治療を受けられるかといった医療情報を得られずに、途方に暮れる人もいるだろう。

 そうした闘病生活の苦しさを、同じ病気の人がつながるSNSを提供することで軽減しようというスタートアップがある。「闘病生活を楽しめる社会」の創造をミッションに2020年に創業した株式会社 DayRoom(本社:神奈川県相模原市)だ。

DayRoom代表取締役の林和正氏(WeWork オーシャンゲートみなとみらいにて)
DayRoom代表取締役の林和正氏(WeWork オーシャンゲートみなとみらいにて)

 同社が今年(2021年)9月にリリースした闘病SNS「DayRoom」には、病気ごとにトークルームが設定されている。トークルーム内では、同じ病気を持つ者同士が会話をしたり、治療の体験談を共有したりすることができ、病院の評判や有益な情報などが得られる。

「『DayRoom』は一言でいうと、オンライン上に作った病院のデイルームです」と話すのは、DayRoom代表取締役の林和正氏だ。

 一般の病院では、入院病棟の各フロアにデイルームと呼ばれる談話室が設けられている。「ここで得られる情報や仲間が実は患者にとってはかなり重要で、闘病生活の支えとなっています。簡単に言うと、このデイルームをオンライン上で提供するのが『DayRoom』です」(林氏)

 林氏に「DayRoom」を立ち上げた経緯やビジネスモデルなどを聞いた。

自身の闘病生活がきっかけ

 林氏は学生時代に、舌下腺の損傷などにより唾液腺がつまってしまうガマ腫という病気にかかり、この治療で2度手術を受けている。1度目は術後一週間で強い痛みが起こり、それを担当医に伝えたが「炎症は起きていない」と退けられた。

 病気は再発し、2度目の手術を受けることに。運良く今度は「ゴッドハンド」と呼ばれる医師が執刀。患部を切り開いてみると、やはり1度目の手術で強い炎症が起きており、周辺器官まで損傷を受けていたことがわかった。

「そこで急遽摘出手術に加え、周辺の再建手術も行ってもらうことになりました。そのゴッドハンドと呼ばれる先生でなければ、今もどうなっていたかわからないくらい大変な状態でした」(林氏)

 こうした体験を通して、「医療情報の閉鎖感」と「病人の孤独感」が大きな問題であると感じ、「(闘病中の人が)自分と同じような状況に陥るのを防ぐには、患者自身が必要な情報を集められる仕組みが必要だ」と考えた。これが「DayRoom」を立ち上げるきっかけになったという。

「同じ病気の人がつながれば、互いの辛さや、病気や病院の情報を共有することで、闘病生活の質を上げていけるのではと考えたのです。また私自身、今もさまざまな病気を抱えており、他の人がどう対処しているのか知りたいと思っています。このことも大きな原動力になっています」

ビジネスとしての可能性は

 社会課題の解決につながる「DayRoom」の存在意義は高いように思われる。しかし気になるのはどう収益を確保するのかだ。

「DayRoom」のビジネスモデルについて、当面は広告収入を考えているとのことだが、その一方で「広告は収益源としては大きくない」とも話す。患者同士をつなぐプラットフォームとしてのポジションを確立したら、そこで蓄積されたデータを分析した上で、「例えば製薬会社や医療機器メーカー、研究機関に提供するなど、協業を図りたい」といった構想をもっている。

 また、オンライン医療(診療、処方など)との連携や、海外版「DayRoom」を矢継ぎ早に展開することで、事業規模を拡大していくとのことだ。

闘病する人のために1日でも早く

 では同様のサービスに対する優位性はどこにあるのか。林氏によると、既存SNSでは、同じ場所で複数の病気についての情報交換が行われることがあり、有益な情報が埋もれてしまいやすい構造となっているという。「DayRoom」は病気ごとにトークルームが分かれているため、この点で優位性があると分析する。

「DayRoom」の主な機能
「DayRoom」の主な機能

 がんなど患者の数が多い病気には、それに特化したSNSも存在するが、「コミュニティ自体が存在しない病気も非常に多く、また、あったとしてもNPO法人が運営するところがほとんどで、認知の拡大が課題になる」という。これについても、現時点で3600種以上の病気を扱い、会社組織が運営し、認知拡大に努めている「DayRoom」に強みがあると話す。

 また、海外市場についても、大手患者コミュニティ「PatientsLikeMe」が存在しているが、こちらは世界共通の仕組みで、英語で展開されていることで利用者が限られると指摘。「DayRoom」海外版では、国ごとの言語や医療体制に合わせてサービスを提供し、データを蓄積することで、ユーザーの利便性やデータの利用価値が高められるとした。

 ただ現時点では、ユーザー数や、体験談などの投稿数が十分な数に届いていないため、登録しても同じ病気の人とつながることができなかったり、必要な情報を得られなかったりすることもある。

「これを改善するために、さまざまな病気の人が参加する『みんなの部屋』という新しい機能を設けました。ユーザーにはここでひとまず病気の人とつながる経験を得ていただき、次のステップに踏み出してもらいやすくしようと考えています」

 また闘病中の人のインタビュー記事などを掲載するメディア「DayMedia(仮称)」の公開も予定しており、これにより、闘病経験や情報を共有することへのハードルを下げようと考えているとのことだ。

 さらに、医療・健康に関するSNSサービスを提供するにあたり、誤った情報やデマへの対処は欠かせない。こちらに関しては、「医療系のデマなど不適切な投稿を完全に防ぐことは難しい」としつつも、「DayRoom」では病気ごとに情報が集約されるため、利用者が誤った情報が触れたとしても、「その訂正情報も同じ場所で一緒に目にすることができる。これによりデマの拡散を抑制できる」と説明する。

 さらに「DayRoom」には「ありがとう機能」という仕組みがあり、これもデマ防止に一役買う。

「ありがとう機能は、有益な情報に対して、一般的なSNSの『いいね』ボタンのように、『ありがとう』ボタンを押せる機能です。この『ありがとう』の数が多い順に投稿を並べ替えることができるのですが、これによっても、無益な情報(デマ)を目にする機会を減らし、その拡散を防げると考えています」

* * *

 現在DayRoomは、サービスの改善作業を進めるとともに、人員拡充と資金調達に向け動き出し始めている。

「今闘病をしている人がたくさんいるわけですから、このサービス(事業)は、とにかく早く進めることが大事だと考えています。闘病中の人に1日でも早く使ってもらい、その苦痛を取り除いてもらえるよう、今後も早さと安全性の確保を重視しながら進めていきます」(林氏)

Written by
有限会社ガーデンシティ・プランニングにてライティングとディレクションを担当。ICT関連や街づくり関連をテーマにしたコンテンツ制作を中心に活動する。