2021年10月19日、株式会社デジタルガレージが主催するシードアクセラレーターブログラムOpen Network Labの23期生によるデモデイがオンラインで開催され、3カ月間のプログラムを終えた5チームがピッチを行った。
最初にピッチをしたのが、製造現場の情報共有をデジタル化する現場動画シェアクラウド「VideoStep」を提供する、株式会社LAMILA代表取締役 迎(むかい)健太氏。
製造業では品質を維持することが必要だが、昨今はそれが難しくなってきている。高齢化で技術の伝承が急がれるが、外国人労働者の増加もあり円滑なコミュニケーションが難しく、また従来のアナログな情報共有では効率が悪い。
こうした課題を解決するためには、技術の記録、伝達が手軽にできることが必須だ。
作業手順を動画で記録するVideoStepを利用すれば、手軽に動画手順書ができる。さらに13ヶ国語に対応する機械翻訳を使い、外国人労働者や海外の工場で働くスタッフにも対応。さらにこのアプリには作業報告が作成できる機能もあり、習得した作業が正しく完了したかの情報共有も可能だ。「情報共有の精度をカイゼンすることにより、現場の品質を大幅に向上させることができます」(迎氏)
迎氏は、VideoStepは他社が提供する動画マニュアルツールとは異なり、報告書作成等現場のオペレーションに深く入り込んだツールだと優位性を示した。そして「日本の巨大産業である製造市場をアップデートしたいと思います」と結んだ。
続いて、特定技能ビザ保有の外国人(特定技能人材)雇用を促進するマッチングプラットフォーム「tokuty(トクティー)」を展開するコネクティー株式会社 代表取締役杉原尚輔氏が登壇。
日本では2030年までに製造業、介護、宿泊業など全14業種で625万人の労働力が不足するという。これらの産業の労働力不足を補うために、新たに設けられた特定技能ビザを取得した外国人労働者を雇用することが必要になる。
しかし現在、日本で人手不足に悩む雇用主が、必要な特定技能を持つ人材を採用することは難しい。これは採用のフローに原因がある。特定技能人材は、現地(海外)の人材会社に登録されているため、日本の人材会社が直接採用することができない。よって日本の人材会社は現地の会社とやり取りをすることになるが、言葉の壁があるため、多くの現地の人材会社とのコネクションを築くことができない。tokutyはその課題をクリアし、多くの現地人材会社との取引を実現している。
「我々はネイティブのコーディネーターが多く所属しているため、母国の人材会社と直接交渉し、パートナーを増やしております」(杉原氏)
tokutyサイトは多言語対応(12ヶ国語)しており、これを利用すれば、海外人材会社は、ストレスなく日本の雇用主がどんな人材を求めているのかを知ることができる。また、独自のアルゴリズムにより、雇用主の希望する人材の一致度をスコア表示できる機能も備えている。これを見れば、雇用主も候補に上がった人材から自社に適した人材を簡単に選択することができる。
杉原氏によると2030年までの特定技能対象者数は186万人になる。この数は新卒者の5倍の規模で、その市場規模は3,720億円となるという。
事業拡大の方向としては、来日する人材が必要とする海外送金、クレジットカード、融資などの金融ソリューションの提供を検討している。また、将来的にはアジアから中東・欧米への人材共有も視野に入れている。「移民全体3億人、60兆円の巨大市場に挑みます」と杉原氏は結んだ。
続いて、「生産者と花屋の直接取引プラットフォーム」を展開するCAVIN inc.代表取締役CEO Yuya Roy Komatsu氏が登壇した。
Komatsu氏によると、日本では、花屋が仕入れた30%の破棄される“フロワーロス”の実態があり、その規模は1,200億円にもなるという。原因は「卸を通してしか花を買えない」「流通経路の問題で在庫の消費期限が4日」「大ロットで買わなければならず好きな花を買えない」ためだ。
これに対して「生産者と花屋との直接取引」が解決策だと考え、Komatsu氏らは卸を通さず生産者と花屋が直接取引できるプラットフォームを立ち上げた。2020年6月に施行になった改正卸売市場法により、市場外取引に対する規制が緩和されたことも、このビジネスの後押しとなっている。
プラットフォームのメリットとしては、生産データ、取引データ、在庫データの3つのデータを収集分析することで、マーケットインの花の生産が可能になること。さらには、流通経路を短縮することで店頭在庫が可能日数も4日から7日に伸ひる。現在すでに九州の一部地域でサービスを提供しており、福岡県中央区、博多区では花屋の7割ほどが登録しているという。
現在は基盤となるプラットフォームを整えている段階であり、今後はその上に生産管理と在庫管理のSaaSを展開していく予定だ。海外展開も花の輸出から始め、生産技術の輸出、システム自体の輸出を行っていきたいと続け、「弊社はSDGsの10項目に該当しています」と結んだ。
続いて株式会社xTension代表取締役社長 塔下(とうげ)太朗氏が登壇し、ライブ市場は「絶望と希望のはざまにある」と話し始めた。
「絶望」とは、物理的な会場で行われるライブは、コロナ禍で売上高はおよそ5分の1に下がったこと。そして「希望」とは、ライブ映像をスマホや大画面で鑑賞するデジタルライブのスタイルが普及してきたことだ。しかし 「デジタルライブはリアルのライブに程遠い体験」であるとの声があることも事実。「(オンラインでのライブは)ライブらしさがスポイルされているのです」(塔下氏)
そこでxTensionが提供するのが新感覚のライブ体験「ライブダイビングサービス」だ。「プロジェクター投影により、個室全体を現実のライブのような体感的なデジタルライブ会場に作り変えることができます」(塔下氏)
ここでは、他の場所でライブを見ている人たちの姿をアバターで認識することができ、多くの人たちと一緒になってライブを楽しむ感覚がある。またスマホをなど振って応援することも可能だ。さらに演奏するアーティストにも、参加する観客の姿をアバターとして伝えることができる。こうして一体感を作り、コールアンドレスポンスや、会場の歓声による会話コミュニケーションが成立する。単なるライブビューイングではできない唯一無二のものになると塔下氏は述べた。
xTensionのビジネスモデルは、ライブの参加費の10%をレベニューシェアとして受け取ることを想定している。プロジェクターなどの機器を準備するだけなので、導入コストは低く抑えられ、カラオケ店舗などでも設定が可能だという。まずは中小アーティストのマネタイズ支援からスタートし、スポーツ観戦、観劇へと市場拡大をはかり、「すべての鑑賞コンテンツの必須ツールをめざす」と見通しを述べた。
最後に登壇したのが、株式会社CuboRex代表取締役CEO寺嶋瑞仁氏だ。CuboRexはあらゆる不整地に電動の足を提供する「不整地のパイオニア」だ。
「不整地産業」とは、農業、建築現場、災害現場など、舗装・整備されていない環境下で作業を行う産業のことを指す。不整地産業では、物理的な移動の負担が大きい。機械化にあたっては、同じ作業でも作業環境・収穫時期によって解決手段が異なり、それぞれに対応した機器を準備するとなると金銭的負担が大きくなるという。そんな課題に対応し、あらゆる不整地に適応する電動の足を開発するのが同社のミッションだ。
これまですでに、ネコ車(一輪車)電動化キット「E-CATKIT」などのプロダクトを発表、販売をしており、傾斜地にあるみかん畑などで実績を上げている。
今回のピッチでは、小型キャタピラー型の動力内蔵駆動システム「CuGo」を取り上げた。電力を供給するだけで駆動することができるこのシステムは、レゴブロックを組むように簡単に後付工作できる。例えば、畑の収穫カゴへの取付作業は1時間ほど。そのまま畑での収穫に使い、作業検証を行ったこともある。
さらに、全国の農業事業者に展開できる体制を整えるにあたって、全農と連携もスタートしている。これまで数多くの農業機械を取り扱ってきた全農もハードウェア・スタートアップとの提携はこれが初めて。これにより農業作業現場への販売だけでなくアフターメンテナンスの全国提供も可能となった。
寺嶋氏によると、国内の不整地産業市場は2.5兆円ある。「不整地産業において利用者自身が欲しいものを作り利用することが当たり前になった社会を実現します」と結んだ。
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これらのピッチを審査した結果、ベストチームアワードはtokutyを運営するコネクティー株式会社が受賞した。また、CAVIN inc.がオーディエンスアワードと特別賞を、株式会社CuboRexが特別賞を受賞した。コネクティー杉原氏は「日本の課題を解決し、世界に羽ばたくスタートアップになります」と意気込みを示した。