ユニークなアイデアや優れた仕組みを作り上げ、SaaSやフィンテックなどソフトウェアの分野で成功を収めるスタートアップは数多く存在する。一方、モノづくりが好きで、それが高じて“自分が造ったモノ”を世に出し、そこを起点にイノベーションを起こそうとする人たちもいる。いわゆる「ハードウェア・スタートアップ」だ。
ここでは、そうしたスタートアップが作り出すモノに焦点をあてて紹介していきたい。その第1回とは、不整地産業の課題を「電動の足」で解決することを目指す、株式会社CuboRexの製品に注目した。(代表取締役CEO寺嶋瑞仁氏のインタビューなどはこちら『オンラボ・ジャーナル』の記事で)
農業、林業、建設業など不整地で行なわれる仕事は多くある。不整地ではちょっとしたものを移動させるのも大変。荷物の移動や運搬で台車や一輪車を使うとしても、整地された場所で動かすようにはいかず、大きな力が必要となる。辛い仕事だ。CuboRexの製品はこの課題を電動化で解決する。
建設重機やトラクターなど、不整地向けの大型重機はすでに多く存在している。しかし、CuboRexが手掛けるような、小型ロボティックス向けのクローラーなどはこれまであまり作られてこなかった。なぜなら人が頑張ればなんとかなる分野では、機械化のコストより人件費が安いうちは、イノベーションは受け入れられない。
今、時代が変わりつつある。人手不足の問題もあり「機械化できるところは機械化しよう」という機運が高まりこの分野に追い風が吹き始めた。
代表の寺嶋氏は和歌山県の出身だ。山の斜面に広がるみかん畑を上り下りする農家の苦労を間近に見て、一輪車を電動化することを思いついたのは自然な流れだ。
電動の一輪車はすでにいくつか市販化されているが、CuboRexの場合、手持ちの一輪車を電動化するためのキットを販売している。キットを購入すれば自分で組み立てることも可能だ。
そのためにいくつかの工夫が施されているが、そのひとつが、サイズ調整のための車輪まわりのワッシャーだ。これによって既存の一輪車のタイヤ取付台座間のサイズの違いを吸収する。簡単な工夫ながら気の利いたサービスだ。
農業現場の省力化をはかるための電動化ツールというと、「高齢化する農業の課題解決」というキーワードと結びつけてしまい、体力が衰えた高齢者向きの製品かと考えてしまうが、これが大きな勘違いだった。
同社の取締役COO嘉数正人氏の話を聞くと、「E-Cat Kit」は将来の農業を担っていく若い層をメインのターゲットとしている。この層は、先を見据えて効率化のための投資を惜しまない。また。機械や技術へのリテラシーも高いため、製品初期のユーザーとしては理想的で、利用者の声として製品改良のための建設的なフィードバックを与えてくれるという。
これまた代表の寺嶋氏の経歴と関係するのだが、雪国の大学で学生生活をした際に、雪に埋もれる大学構内を移動するために思いついたのがこの電動クローラーユニットの祖型だ。
その後、「汎用クローラモジュール」として製品化され、農林業や建築現場などでさまざまな用途向けにカスタマイズされ活用されている。
「CuGo V3」の顧客には、企業や大学などで開発に従事する人も多い。農林業、建築だけではなく災害現場など、不整地で必要となる製品は結構多く、研究開発も盛んだが、その足回りのクローラーまでも自ら開発するのは大変だ。そこにレゴ製品のように簡単に組み込めカスタム性が高い「CuGo V3」の需要がある。
ハードウェアの開発は最初からスムーズだったわけではない。どの製品も販売当初には改良の要望が驚くほど出てきたという。顧客とのやり取りの中から改良すべき個所を見つけ出し、次々とバージョンアップを繰り返す。まさにハードウェアのアジャイル開発だ。改善への素早い決断、実行力。それが可能であることがハードウェアスタートアップの真骨頂だ。
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ソニーもホンダも今風に言えば“ものづくりベンチャー”あるいは“ハードウェア・スタートアップ”だ。自分たちの手で組み立てたトランジスタラジオやバイクを、自分たちの脚で売り歩いた。最初から完璧な製品だったわけではない。海外では「安いけど日本製品はよく壊れる」と言われた。クレームも多かったことだろう。しかし、ひるまずに次々と改良を重ね顧客の信頼を勝ち取ってきた。
お手本は必ずしも高度成長期の日本の企業である必要はない。アップル、テスラのような例もあるが、この偉大なモノづくりの先達に連なるスタートアップが今の日本には必要だ。
※株式会社CuboReXは、株式会社DGインキュベーションが運営する「Open Network Lab・ESG1号投資事業有限責任組合」(通称:Earthshotファンド)の出資先の一社となります。