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EVへの「走行中ワイヤレス給電」と「太陽光発電」は相性が良いのはナゼ?

太陽光発電と走行中ワイヤレス給電を組み合わせたシステムの実験の様子(画像提供:東京理科大学 居村研究室)

太陽光発電と走行中ワイヤレス給電を組み合わせたシステムの実験の様子(画像提供:東京理科大学 居村研究室)

 温室効果ガスの排出量削減の流れもあり、世界中でEV(電気自動車)が普及し始めた。しかし、さらなるEV普及にはさまざまな課題を乗り越えなければならないが、特に大きな問題となっているのが電力補給の方法だ。

 電力補給のための充電回数を増やさずに、EVの航続距離を伸ばす方法のひとつはバッテリーを大容量化することだが、そうするとバッテリーが高価になったり、充電時間が長くなり、それが普及のボトルネックとなる。

 EVの普及が進む中国では、カラになったバッテリーを、満充電のものと入れ替えて使うという方式も普及し始めているようだが、解決策はもうひとつある。

「走行中ワイヤレス給電(DWPT:Dynamic Wireless Power Transfer)」という方法だ。これは、道路の下に給電システムを埋設し、走行中のEVにワイヤレスで給電していく仕組みで、実現すれば、バッテリーの容量を最小化しつつ、走行距離を大幅に伸ばせるのではと期待されている。

 この走行中ワイヤレス給電の開発に加え、そのエネルギー源に、化石燃料由来の電力ではなく、「太陽光発電(PV)」を組み合わせることで、さらなるメリットを生み出そうとしているのが、東京理科大学 理工学部 電気電子情報工学科准教授の居村岳広博士(工学)らの研究グループだ。

東京理科大学 居村研究室のメンバー
東京理科大学 居村研究室のメンバー

 走行中ワイヤレス給電の仕組みや特徴、さらに太陽光発電を組み合わせることでどのようなメリットが生まれるのかを居村氏に聞いた。

* * *

東京理科大学 理工学部 電気電子情報工学科准教授の居村岳広博士(工学)
東京理科大学 理工学部 電気電子情報工学科准教授の居村岳広博士(工学)

 走行中ワイヤレス給電では、どうやって走行中のEVに給電するのだろう。居村氏によると、技術的には「電磁誘導」の仕組みを利用しているのだという。

 コイル(電線を円筒状に巻いたもの)を組み込んだ電気回路に電流を流すと、磁界が発生する。これに、コイルを組み込んだ別の電気回路を近づけると、そこでも同様の磁界と電流が発生する。つまり、磁界と電流が “移る”ことになる。これが電磁誘導の仕組みだ。

 2007年、米国のマサチューセッツ工科大学(MIT)のマリン・ソーリャチッチ(Marin Soljacic)教授らの研究グループが、この電磁誘導の回路に、コンデンサなどの共振(共鳴)器を組み込むことで、数メートル離れた先にも高効率に電力を送れるようになることを発表した。

「この発見により、(電力を)かなり遠くまで飛ばせるようになりました。これが走行中ワイヤレス給電開発のベースになっています」(居村氏)

 走行中ワイヤレス給電では、こうした仕組みや現象を応用。道路の下に送電コイルを埋設し、その上を、受電コイルを乗せたEVを通過させることで、電力を車両に送ることができる。

 しかし走行中のEVは、送電コイルの上を猛スピードで通過する。その一瞬にどの程度の給電ができるのだろう。

走行中ワイヤレス給電のイメージ(画像提供:東京理科大学 居村研究室)
走行中ワイヤレス給電のイメージ(画像提供:東京理科大学 居村研究室)

 居村氏によると、仮に5mの送電コイルの上を、時速100kmの車が通過すると、通過時間は0.18秒となるという。その一瞬の間に、送電コイル側は「車が通っていることを検出」し、受電コイル側は「電力を受け取り」、さらに車が走り抜けた後に送電コイルは「電源をオフ」する必要があるとのこと。

「これだけの作業をひとつひとつのコイルの上でやっていくわけですから、非常に高度な技術が必要です」

 ちなみに、これだけの高速処理となると、仮に5Gを使ったとしても無線通信の速度では間に合わない。そこで必要となるのは、「(送電コイルや受電コイルが)自分で判断する仕組み」だという。

「送電コイルの電気回路は、車の受電コイルが近づくことで、電流が流れやすくなるなど、その状態が大きく変化するよう設計されています。この電流の変化を検知し、一気に電圧を上げるシステムを組み込むことで、一瞬で送電コイルの上を通過するEVにも給電できるようになっています」

どんな課題を解消できるのか

 走行中ワイヤレス給電は、具体的にどういった導入メリットがあるのか。居村氏は、「大容量バッテリーを搭載したEVが大量普及した場合に起こるさまざまな課題を解消できる」と胸を張る。

 まず考えられるのが「サービスエリア飽和問題」だ。仮にEVの普及率が10%に達したとすると、高速道路のサービスエリアでは、常時30台から60台が急速充電をする必要があり、サービスエリアがパンクしてしまう。これが、走行しながら充電できる走行中ワイヤレス給電であれば解消できるという。

 加えて「原材料の生産スピードの問題」も解消されるとのこと。リチウムイオンバッテリーの原材料となるリチウムやコバルトは、埋蔵量こそ問題ないものの、生産工程が複雑で、大容量電池の供給スピードを上げることが難しい。これも、電池容量を最小化できる走行中ワイヤレス給電を導入すればクリアできるという。

 さらに、道路の下に送電コイルを埋設していくコストについても、「(社会全体で見ると)大容量バッテリーを搭載するよりもコストが下がる可能性が高い」という。

 居村氏によると、走行中ワイヤレス給電の機器を含めた建設費は、1kmあたり1億円(〜3億円)かかる。すると、東京-大阪間500kmの往復建設コストは、1000億円(500km×2)となる。

 一方、EVのバッテリーコストは、数年前までは1kWhに換算すると約3.3万円ほどだった。EVの電池容量が40 kWhだとすると、走行中ワイヤレス給電を導入すると、この容量をおよそ30kWh分減らせるという。

「これをもとに単純計算すると、EV1台あたり、約100万円(3.3万円×30kWh)安くなるという計算になります。さらに、年間国内自動車販売数500万台のうち、10%がEVに置き換わったとすると、年間5000億円(50万台×100万円)浮くことになる。先ほどお伝えした東京-大阪間の建設コストが1000億円なのに対して、電池コストが年間5000億円浮くわけですから、うまくお金を回せば、十分実現できると我々は考えています」(居村氏)

 バッテリーのコストも年々安くなってきてはいるものの、ワイヤレス給電の設備の価格についても、十分検討に値するレベルにあるといえる。

太陽光発電と組み合わせる利点は?

 現在、東京理科大学 居村研究室では、走行中ワイヤレス給電に太陽光発電を組み合わせる研究を始めている。ここにはどんな狙いがあるのだろう。

「さまざまなメリットが考えられるが、太陽光発電の大量導入における『余剰電力の問題』を解消できる点が大きい」と居村氏は説明する。

「太陽光発電を大量導入できない理由のひとつには、大量導入してしまうと、日中の発電量が増えすぎて、余った電力をどこにも吸収させられないという問題が挙げられます。NAS電池などの大型蓄電システムもありますが、コスト的にも容量的にも割りが合わない。そこで目をつけられているのが、将来大量普及するであろうEVに吸収してもらうことなのです」

 つまり日中走行しているワイヤレス給電式のEVを”走る蓄電池”だと考える。自宅駐車場などに停めているEVに充電するという方法もあるが、止まっている車は電気を消費しないのですぐ満杯になってしまう。かといって、駐車する前にわざわざ放電するわけにもいかず、「相性はあまり良くない」(居村氏)。 

太陽光パネルとワイヤレス給電装置
太陽光パネルとワイヤレス給電装置

 走行中の給電は、停車中の約5~12倍もの電力を吸収できるため、太陽光発電の余剰電力対策としては「非常に親和性が高い」とのことだ。

 2022年3月、居村氏らの研究グループは、太陽光発電と走行中ワイヤレス給電を組み合わせた回路と制御システムを開発し、実車を用いた実験にも成功した。

「これまでもコンセプトとしては、世界中でたくさん提示されていましたが、今回の実験で、実際の技術に落とし込み、ひとつのシステムとして動作することが確認できました。これでようやく第一歩が踏み出せたことになります。ここから、いよいよ本格的な開発競争が始まります」

 居村氏らの研究開発が、世界をリードする形で発展することを期待したい。

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有限会社ガーデンシティ・プランニングにてライティングとディレクションを担当。ICT関連や街づくり関連をテーマにしたコンテンツ制作を中心に活動する。