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【JOI ITO’S PODCAST ―変革への道― Vol.54 】仮想通貨取引所は分散型が主流となるか?日本にルーツを持つDEX、Orcaの共同創業者に聞く

左から伊藤穰一、森優太郎氏、オリ・クワン氏

左から伊藤穰一、森優太郎氏、オリ・クワン氏

 資金繰りの悪化が明らかになった交換業大手FTXトレーディングが、11日に連邦破産法11条の適用を申請したことで、仮想通貨業界がおおいに揺れている。そんな中、管理者のいる中央集権型のCEX(中央集権型取引所)ではなく、ブロックチェーンの理念に近く、より透明性の高いと言われるDEX(分散型取引所)へ注目が集まりつつある。

 DEXとは仲介者が存在せず、自動化されたスマートコントラクトを使って暗号資産取引を実行するアプリケーションを指す。ある金融機関の報告書によれば、今後はDEXの事業成長がCEXを上回る可能性があるという。

 今週の「JOI ITO’S PODCAST  ―変革への道―」には、分散型取引所の中でも異彩を放つOrcaのオリ・クワン氏と森優太郎氏が出演した。OrcaはソラナというLayer1ブロックチェーン上で人気を誇る日本にルーツを持つ分散型取引所で、イーサリアム・ファウンデーション出身の森氏とIDEO TOKYO出身のデザイナーであるオリ氏が2020年に東京でスタートさせたプラットフォーム。Orcaの報告によると1日あたりのユーザー数は今年5月には13万人を超え、ソラナ上でも多くの支持を獲得している分散型取引所となっている。

まずは、2人が出会ったきっかけについて聞いた。

* * *

伊藤穰一(以下、伊藤):まずはOrca設立の経緯と、お2人がどうやって出会ったのか伺います。まずは、Orcaについて 簡単に説明していただけますか。

オリ・クワン(以下、オリ):Orcaはソラナ上に構築された 分散型取引所です。我々の目標は、人間中心設計(Human-Centered Design : HCD)を通じて経済機会を創出すること。この目標を実現するために、オープンソースで且つ使いやすい、取引に関連する技術を提供しています。誰でもあらゆるトークンをソラナ上で取引することが可能になり、Orcaの上であればどんなアプリでも流動性を提供することができます。

伊藤:OrcaはDAOなんですよね。拠点は日本にあるんですか。

オリ:OrcaはDAOになります。日本には拠点となる組織はありませんが、世界中の貢献者によって構築されているプラットフォームで、完全に分散化させるべく進めています。

伊藤:あなた方は 日本に住んでいた時に Orcaを創設したんですよね?事業をスタートさせたのはいつですか。

オリ:日本に住んでいた頃に、Orcaをスタートさせました。創業したのは2020年、コロナが一番大変だったころですね。

伊藤:コロナ禍で事業をスタートさせた背景など詳しく教えてください。

オリ:私は当時、とあるシェアハウスに引っ越したのですが、その週に会社が完全リモート勤務となり、ほぼ24時間同じシェアハウスで時間を過ごすことになりました。同じ場所にずっと閉じ込もっていると、飽きちゃいますよね。退屈だからこそ、モノ作りをしたいという欲求につながったんです。ラウンジで朝食を食べている時に、当時同じシェアハウスに住んでいた共同創業者の森との偶然の出会いがありました。「私も退屈、あなたも退屈。私は開発者、あなたも開発者。何か作らない?」

森優太郎(以下、森):当初はイーサリアムで構築していたのですが、ビジネスとして成立させるつもりはなかったんです。本当にただの暇つぶしでした。コロナ禍で引きこもり作業をしていただけで、週末のプロジェクトに過ぎませんでした。そしてソラナについて注目し始めたのも、ちょうどこの頃でした。仮想通貨はコロナの影響で当時かなり盛り上がっていましたから、その波に乗ることができたのは幸運でした。

オリ:実は、当時、私は仮想通貨には全く興味がなかったんです。なので、当初はかなり必死に抵抗してましたね、でもハマってからは「仮想通貨って色々できて、いいかも!」と思う様になりました。

森:彼女は、クリプトにかなり懐疑的でした。反対派と同じく、クリプトを恐れてたんだと思います。そのほとんどが投機的で、規制がなされておらず、なんだか怖そうなイメージなんでしょうね。詐欺っぽいし。

オリ:大の大人が、犬のコインに大騒ぎしてるのが信じられなくて。でも、その技術を使って作れるものも沢山あることに気づいたんです。もし我々がクリプト業界で影響力を持つことができれば、それを使って社会を良い方向へ押し進めることができる。そう彼に言われて、腹落ちしたんです。

伊藤:Orcaが辿ってきた道のりについて伺います。そもそも、なぜ分散型取引所をやろうと思ったんですか。分散型取引所の開発までの道のりを教えてください。

森:トークンは全てを支える背骨のような存在で、ブロックチェーン上で最も重要な要素になります。トークンの送金が可能になって初めて、交換ができるようになります。それが私にとっては大きな理由のひとつでした。

オリ:私は、クリプト技術にそこまで興味があった訳ではなく、むしろ、その影響力に興味がありました。技術については大きなこだわりはありません。Orcaの一番スゴイところは、ブロックチェーン上のアプリを作成するのにとても簡単にOrcaのオープンソースSDK及びスマートコントラクトを活用できるという点です。こうした設計でたくさんのアプリを支えることができることは、急成長するエコシステムに大きな影響力を持つことに繋がります。そして結果として、社会をより良くするためにクリプト技術を使うことができると考えたのです。

伊藤:Orcaのことを、あなたは“人によりそったDeFi(DeFi for the People)”と名づけていましたね。OrcaはDeFiをソーシャルグッドに結び付けようとしていますが、クリプト業界におけるトークンの良さとは何だと思いますか?

オリ:Orcaは、人間中心設計の原則に基づいて設計されています。これまでのブロックチェーン上のアプリのインターフェースはどちらかというと、基礎となるデータ構造を忠実に具現化したものがほとんどでした。Orcaのインターフェースは、人々により直感的なデザインで使いやすいものにしています。正直なところ、多くのクリプト系アプリを見てみると投機的なものが大半を占めています。トークンを購入できるのは、特定の知識を持つ一握りの人たちだけ。私たちの長期的な目標は、そのような状況下を打破し、金融アクセスを向上させることにあります。それこそがクリプトの本質だと思うのです。誰もが革新的なものを構築できるアクセシブルな環境を整えたいのです。

森:これは、私の個人的な意見ですが、クリプトはあくまでただの技術であり、本質的に善でも悪でもありません。もちろん悪いことに使われることもあります。アルゴリズム型ステーブルコインを作って、200億ドルまで増やし一日で全部暴落させて、壊滅的な被害を与えるような人もいます。でも、きちんと正しく使えば、人々に本当の価値をもたらすことができると思うのです。

伊藤:森さんがかつて所属していたイーサリアム・ファウンデーションの宮口あやさんは「人間協調のためのプロトコル」を提言しています。トークンや分散型取引所の、人間同士をつなぐ役割についてどうお考えですか。

オリ:道路みたいなものになるような気がしています。Orcaが今作っているのは、流行に敏感な若者たちが、将来クレイジーなものを作り出せる「生態系」のようなもの。将来的に、今ある問題を解決してくれるようになるといいですね。例えば、不動産に特化したアプリ構築や、カーボンオフセット市場などは、注目しています。炭素のトークン化は、アクセスや透明性などが改善されるといいと思っています。それ以上に、自分が思いつきもしなかったものを見てみたいですよね。しかも彼らがOrcaを使ってたりしたら、最高だと思います。私たちの想像を超えたユースケースを是非見てみたいですね。

森:あとは、通貨のあり方も変わって行って欲しいなと思います。ご存知の通り、 アメリカには米連邦準備理事会があり、年に数回行われる議長の演説を解読し 利上げの予測を立てています。多くの人々は、それを基準に株を売買する。ある意味、経済は操作されているわけです。今の技術で考えると、それは、とても不可解に感じます。トークンやブロックチェーンは 新しい構成要素になると思います。より健全で、より効率的な金融システムが生まれる可能性を秘めたね。

番組では、日本における規制や彼らの思いなども聞いている。詳しくは番組をお聞きいただきたい。

【JOI ITO 変革への道 – Opinion Box】

 番組では、リスナーからのお便りを募集しています。番組に対する意見だけではなく、伊藤穰一への質問なども受け付けます。特に番組に貢献したリスナーには番組オリジナルのNFT会員証をプレゼントします。

https://joi.ito.com/jp/archives/2022/10/03/005828.html

【編集ノート】

 伊藤穰一からのメッセージや、スタッフによる制作レポート、そして番組に登場した難解な単語などはこちら。

https://joi.ito.com/jp/archives/2022/11/14/005841.html

JOI ITO’S PODCAST ―変革への道―
JOI ITO’S PODCAST ―変革への道―

■「JOI ITO’S PODCAST ―変革への道―」

#54 仮想通貨取引所は分散型が主流となるか?日本にルーツを持つDEX、Orcaの共同創業者に聞く

https://joi.ito.com/links/

  • 「JOI ITO’S PODCAST ―変革への道―」の各記事は、Podcast番組の音声をテキスト化し、要約、抜粋、一部修正したものです。また、記事内の情報はPodcast収録当時の情報となりますので、最新の情報については各サービスの公式サイトなどをご確認ください。
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