(この記事は、デジタルガレージのYouTubeチャンネル向けに行われた対談を要約、一部追記して記事にしたものです。)
木室:今日は、DAOについて一線で活躍されている方々をお呼びして、議論していきたいと思います。私、デジタルガレージのweb3準備室室長の木室と申します。よろしくお願いします。
それでは、今日のゲストをご紹介します。DEVプロトコルのマユミさんとaggre(アグリ)さん。そして、Kanjyoプロトコルを開発しているyasek(ヤセック)さんです。まず簡単に自己紹介と、取り組んでいるプロダクト概要をご説明いただけますか。
原麻由美(以下、原):DEVプロトコルの原麻由美と、CTOのaggreです。DEVプロトコルというのは、オープンソースの分散型ミドルウェアです。クリエイターのためにデザインしているものでして、クリエイターの方たちが持続的にチャレンジをするためのブロックチェーン・テクノロジーとなっています。プロトコル自体は2018年から作っているのですけど、全てのクリエイターの方が、そのプロトコルを意識せずに簡単に使えるよう、ノーコードでDAOを作ることができるClubsというプロダクトを作っています。よろしくお願いします。
木室:yasekさんお願いします。
yasek bridge(以下、yasek):Kanjyoという分散型の給与支払いプロトコルを作っています。クリプト(暗号資産)で給料を貰うこと自体に価値があるので、そこをちょっと広げていきたいと(こういうもの=kanjyoを)作っています。現状クリプトでの支払いは、さまざまな問題があり、例えばオペレーションコストが高いとか、ベスティングの仕組みがない状態で、それによって「プロトコルの価値が毀損する」いったことが起きているので、そのあたり(の解決)に向けて取り組んでいます。
木室:まさに、DAOなどで使うことを想定しているツールということですか。
yasek:そうですね
木室:そもそも、DAOってDecentralized Autonomous Organization、分散型自律組織とか言われますけど、実際どう解釈したらいいのかを、是非オーディエンスの人に「こんなもんだよ」っていうのをお伝えいただきたいのですけれども。
aggre:DAOっていくつかの意味を持っていると思っていて、厳密な意味では、初期のイーサリアムとビットコインのようなもの。ソフトウェアに対して、それぞれの思いで参加している人が、利益を享受している。これは多分最初の定義はDAOだったと思う。ただ最近はもうちょっと柔軟な発想が受け入れられているのかなと思っていて、近い組織の形としては、ギットハブとかギットラボでポスティングされているようなオープンソースのプロジェクトは、非常にDAOと近い組織の成り立ちをしていると思います。
あるひとつの目的に対して、それぞれのスキルで貢献できると思った人たちが、ちょっとずつコーディングすることによって、ソフトウェアをアップグレードしていく。オープンソースの場合は、法的な主体や会社とかがなく、単に「そこにソフトウェアがあって貢献者がいる」という図なのですけど、それをDAOに置き換えた場合、ある「共通の目的とそこに取り組む世界中の人々」という構図は一緒で、そこへの貢献に対するインセンティブの仕組みが備わっているという点が恐らくDAOとオープンソースの違いかなと思っています。
木室:報酬のメカニズムが出てきたことで、こういった、組織運営と報酬と実行が連動していくような流れになってきたのですね。
aggre;通常だと、会社が契約して社員を雇って、その契約内容に基づいて労務を提供し、報酬をもらうということになります。これを会社という法的な主体を伴わない形で、誰かを信頼することなく成し遂げることができたら、恐らくそれがDAOなのだろうなと思います。
木室:その報酬のところ、(yasekさんが)今やっておられるところに近いと感じたのですけど、yasekさんがどういった形でDAOを捉えていて、実際にDeFiのプロジェクトで給料を貰う側としても働かれたことがあるということですが、その実体験もお話いただけますか。
yasek:DAOについての僕の解釈は、結構aggreさんと同じですね。ある目的があってそれを達成し、持続的に動かすためにインセンティブがあって、それに対して個々の利益を追求していくと、最終的にその目的が達成され、持続されるみたいな、そういった組織とか仕組み自体がDAOかなと僕は解釈しています。例えばUniswapとかも、“分散化”しているかといわれると、ちょっとあれなのですけど、仕組み的には誰かが流動性を提供して、それに対して(参加者が)交換していくことで、手数料が発生して、その手数料が分配されるということで。そういった分散型の取引所が持続的に提供されているというところがまさしくDAOっぽいなって思いますね。
木室:実際、働いて、お給料も暗号資産でもらって、どういった問題があるなと思われましたか。
yasek:そうですね。貰う側からの視点で言うと、まず匿名のプロジェクトが多いので、僕が今いる所も匿名のプロジェクトなので、なんか怪しいですよね。それでお金が貰えるまで、正直不安があったのは、やっぱり匿名であるからかなとは思っていますね。
aggre:僕らもDEVプロトコル自体は今、我々がコアコントリビューターっていう形でプロジェクトのほとんどのソフトウェアを作っているのですが、元々このプロジェクトそのものもDAOにするということを念頭において設計をしているのですね。なので、将来的には僕らが誰か社員に対して給料支払うというシチュエーションも、法的な契約がなくて、何かひとつのスマートコントラクトに基づいて報酬の支払いが行われるような仕組みに変えていきたいなと思っていて。ただ今は、コントリビュータとしての会社を持っているので、ここで雇っているという形になっているのです。
原:会社は、15人ぐらいのチームになっているのですけれども、コントリビュータのコミュニティがたくさんあって、世界中から500名以上のオープンソース開発者の方々が、プロトコルにコントリビューションしてくれています。今はまだ、技術的には分散化している状態ですが、運営的にはまだまだ私たちが仕切っているという状況になっていて、給与という面でもコントリビュータに対する報酬は、私たちが決めて払わせていただいているというような状況です。
aggre:契約をしている人もいれば、契約をしていなくて、その時々にバウンティ(報奨金)のようなプログラムになるので、そのプログラムに対して貢献してくれた人にはあらかじめ決められたそのリワードテーブル(報酬一覧)があり、それに則って支払いをしていくっていうことにしています。ただその社員に対しては、課題感はあって、クリプトで払う時に、それそれぞれの開発者が住んでいる国によって「受け入れることが怖いって」言われることもあるし、「税制的にどうなのですか」というところもある。なので100%クリプトで支払うっていうのは、今はやっていなくて、何かのフィアットのカレンシーと組み合わせて、トークンの方はあくまでもオプションという形で支払う形になっているのです。
木室:DAOのツールもいろいろマーケットに出てきて、組成するのも簡単で、より複雑なことができるようになっているので、聞いているだけの人からすると“すごいことができる世界“に捉えられると思うのですけど、実際に現実を見て、どういったところが課題になっているのか、もしくはなり得るのか。(DAOが)普及する上でのポイントみたいなところがあればぜひお伺いしたいです。
aggre:給料を決めるってすごく難しくて……。
原さん;そのあたりは、株式会社とDAOに大きく差がないところで、人が関わって働く以上どうしても従来の会社のような給与テーブルの必要がでてきます。ある程度、報酬基準というのを設計したとしても、DAOの場合だと、本当に世界中からいろんな人たちが自由に参加してくることができるので、すごくムラがあるのですよね、関わり方です。「毎日すごい頑張って働きたい」という人もいれば、「数ヶ月に1回ちょこっと貢献したい」みたいに、本当にバラバラな関わり方をしてくることが多くて。
aggre:それらをサポートするための、給与テーブルを作るのって凄く大変で。これを作らないとDAOがうまく機能しないのであれば、これがDAOを始める時の障壁になるという気はしています。ただ、そこのハードルを下げることができるのだったら本当に色んな小さい単位、今まで会社ではできなかったような個人のちょっとしたアクティビティを、DAOにすることで、自分のスキルを貢献、収益に変えることができる。本当にDAOが浸透した後は、みんな今まで疲弊しながら働いていたところが、好きなところに貢献してお金をもらうということができるようになる。そうなってくれたらいいのにと思います。
木室:面白いですね。能力の可視化というか、タスクとそのクオリティのコントロールと支払いというのは、非常に重要ですね。カルチャーの違い、グローバルな組織が前提で、そのなかでそういったツールとかサービスってやっぱり重要になってくるのかなって。
原さん:そうですね。あと軽い貢献。タスク型で貢献してくる場合は、支払うクリプトの額ってそこまで大きくないので、そんなに慎重にならなくても、簡単にトークンを渡すことができるのですけど、貢献度や関わり度の高い人たちこそ払い方が難しくて。一時的にすごく関わってくれているのだけど、2週間後にはいないかもしれないとか。DAOだと雇用契約を結ぶことがないので、そのあたりが読めないですよね。そうした中で、あなたに期待するのはこれくらいの仕事で、こういう基準で支払いますよと一旦決めてしまうと、クリプトの場合そのトークンバリュは、将来的に上がっていくものなので。今決めた基準は、将来的には10倍ぐらいになったりとか、また逆に10分の1になったりとか、そういうこともあるので、ベスティングがまさに必要になってくるなと思います。仮にその人がいなくなったとしても、働いた分だけフェアに渡せる仕組みは必要だと感じています。
木室:どうですか、yasekさん。普及に向けたハードルなり課題になりについては。
yasek:全ての組織が、DAOに向いているかということがあるので、その辺が一番普及に向けての課題なんじゃないかなという気はしていますね。
木室;具体的に向いているDAOのユースケースとか、これは向かないよねとか、その辺って具体的にどうですか。
yasek:そうですね、先ほど述べたように、ある目的があって、それに対してみんなが個々の利益追求のために行動して達成できるような、仕組みがすごく合っていると思います。逆に目的がなかったり、抽象的だったりすると、途中でやることが変わる時、「じゃあ誰がそれ決めるのか」みたいなところで、分散化しているが故に意思決定が難しくなったりするので、その意思決定のプロセスも今後課題じゃないでしょうか。
木室:aggreさんも何かありますか?これはむいているとか。
aggre:すごく近いのは、例えばパワーグリッド(電力の安定供給)みたいなもので、あれってすごくDAOの発想に近いと。何人もが関わり、それぞれが別の仕組みで、何らかの貢献をし、その対価をもらっています。こういったものは多分(DAOに)置き換えやすい。それ以外に例えば、僕が趣味で、新しい模型を作りますみたいなことをやるとして、これをDAOに出来るかといえば、僕の答えとしては「できる」です。それをやる意味があるかというところは、そんなに考えなくてもいいと思っていて、それをDAOにすることで、外部の人、貢献者が来ることによって今までできなかったことが、だんだん見えてくるようになるので。「トークンをディストリビュートすることもこれから考えるんだけど、このプロジェクトに協力してくれる人いたら、集まってきてほしいんだよね」って話して、そういう風に始めてしまうのもありなのかなと思います。「コミュニティでみんなと一緒にやるのって楽しいよね」というのを分かち合える仲間とやれるのであれば、何でもいいのかなと思っています。
木室:個々のエンゲージメントが高いDAOはサステナブルで、反対に無関心になってしまうと、トークンだけ持っているけど、何もしないみたいになっていくってことですよね。
原:株式会社と組織形態的に似ていますが、株式会社をそのままDAOに持ってくるのはちょっと難しいと思っています。特定の企業の利益のためにDAO(を組成)しましょうということではなく、やはり公共性の高い特定のプロジェクトの方がDAOに向いていると思います。例えば、地域の方たちと「こういうことをやっていこう」とか、「この施設をみんなでよくしていこう」とかそういったものですね。
木室:ありがとうございます。それでは最後に5年後にweb3の個々の要素技術なりサービスがどういう風に使われ、その中で現在提供されているサービスが、このように使われているといいといった世界観をうかがって終わりにしたいと思います。
aggre:さっきも趣味の話をちょっとしたのですけど、例えば趣味で作ったグループと、それとすごく相性のいい、別のクリエイターグループがあり、それぞれトークンを20%ずつ持ち合うとします。どちらかかが伸びれば、お互いの利益になるので、相性の良いプロジェクトが同じ成長曲線を描くことができます。そういったことを自由にできるようにしていきたい。会社を作るのは、面倒くさいので、DAOでそれをやりましょう。これができるようになれば面白いと思います。
木室:ありがとうございます。面白いですね。yasekさんどうですか?
yasek:そうですね、Kanjyoとしても、DAO化みたいなところを目指しているので、まあオープンソースみたいな形で、給与支払の企画として標準化できるような形まで持っていけたらいいかなと考えていますね。
木室:ありがとうございます。お互いDAOの根幹を担うようなツールを開発されているので、私個人としても5年後、みんなが当たり前のように、こうしたサービスを使っている世界になるといいなと思っています。
※「onlab web3」は株式会社デジタルガレージが主催するプログラムです。