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長崎県平戸市から世界へ届けたい 規格外野菜で作った無添加の野菜シート「ベジート」

ベジートの調理例(アイル提供

ベジートの調理例(アイル提供

 カラフルなお弁当づくりに欠かせないのが、規格外の野菜から作った野菜シートである「ベジート」だ。テレビの情報番組でも取り上げられ話題をさらった。そのベジートを生産する株式会社アイルは、長崎県平戸市という人口3万人余りの町にある。平戸から世界に打って出ようとしているアイル代表取締役早田(そうだ)圭介氏にお話を伺った。

保存性を評価 防災食にも

「野菜のシート ベジート 防災セット」(アイル提供)
「野菜のシート ベジート 防災セット」(アイル提供)

 ベジートは、規格外の野菜と寒天だけで作られている。その大きな特色は、野菜の栄養分をそのまま残していることだ。食物繊維は、生の野菜の13倍も入っている。また、着色料や保存料などを一切使わないこともこだわりだ。さらに乾燥させることで水分を飛ばすことによって、長期保存にも向いていることも特色だ。

「基本的なパッケージで、2年間保ちます。自治体向けに作った防災食としてのベジートは5年間保存可能です」

 防災食への採用は意外な感じもするが、災害時におにぎりやカップ麺のローテーションでは野菜不足に陥ってしまう。そこを自治体に評価されたのだという。

 原料である規格外の野菜や果物だが、日本では生産量の約30%が規格外となり、青果流通から外れてしまう。こうした野菜などの泥を取り、悪い部分だけ削ってもらうことを条件に、加工用食材の倍ぐらいの価格でアイルは農家から買い上げていると早田氏は説明した。「儲からない仕事として農業をやめる農家が増えています。持続可能な仕事として農業を続けてもらいたいからです」

無添加が海外展開のポイント

 すでに海外でも人気の「ベジート」だが、早田氏によると海外進出は当初からの考えだと明かした。そもそも平戸市という小さな町から国内展開するだけでは面白くないと感じていた。元野村證券の証券マンである早田氏は「人の行く裏に道あり、花の山」(※編注)つまり人が行かない道のほうがという言葉を思い出した。「国内→アジア→欧米」と展開していく常道のルートではなく、逆にまず欧米から開拓しようと考えた。

ベジート調理例(アイル提供)
ベジート調理例(アイル提供)

※相場格言の一。利益を得るためには、他の市場参加者と逆の行動をとったり、注目を集めていないことに注目したりすべきという教訓のたとえ(コトバンクより引用)

 そこでポイントになるのが、添加物を原料として使わないことだ。日本の食品を海外に輸出する際の大きな障壁が、食材に含まれる添加物だと早田氏。「日本は添加物王国で国内1500種類ぐらいあると言われています」 

 海外顧客は食品添加物には神経質だ。原料に添加物を使用しないベジートは、そこがストロングポイントになる。また、製造体制についても、平戸市にあるアイルの工場は「FSSC22000」(食品安全システム認証)、有機JAS認証を取得しており国際レベルに達している。

 欧米の環境意識が高く、味にきびしい層に狙いを定めて展開すれば道が開けると考え、早田氏はまず欧州を回り、精力的にベジートをプレゼンした。予想通り、ベジタリアンの顧客を多く持つ欧州のバイヤーには大受けだった。規格外の野菜から作るというサスティナブルなストーリーも高く評価された。さらに味覚にきびしいフランス、スペインでも著名シェフから、ベジートの味に高い評価を受け、大きな自信になったという。

まず米国の会員制倉庫型スーパーから

 しかし、欧州の流通は複雑で小規模な顧客が多いため、すぐに大きなビジネスにはつながりにくいと感じた早田氏は、米国から勝負をしていこうと決めた。米国系の卸業者を通じて、バイヤーをくどいて回っているが、とくに注力しているのが日本でもおなじみの会員制倉庫型スーパーだ。そのスーパーに選ばれること自体がステイタスとなり、客層も米国のアッパーミドルなので、ベジートのターゲットだと一致する。

 米国の商談が順調に進んでいることを受け、生産能力も増強する。現在、インドネシアに工場建設を進めている。インドネシアを選択した理由のひとつは寒天の材料であるオゴノリの養殖が可能だからだ。オゴノリはどこででも採れるものではないという。

「インドネシアで作れるなら、赤道周辺の発展途上国でもおそらく作れる可能性があります。そうなれば途上国のビジネスとして定着し、貧困対策にも寄与できる」と早田氏は話す。

 もちろん国内戦略も進めている。テレビで取り上げられブームになったことは、一過性のものと考える早田氏は、低価格での販路開拓とその逆にブランディングを重視した高めの価格帯の2極で、腰を据えて販路を広げようとしている。前者の代表がダイソーで、後者の代表がイオン系列仏オーガニック・スーパーマーケットのビオセボンだ。ビオセボンはまさに顧客層がターゲット通りだと語った。

 株式会社アイルは、販路拡大戦略のため3億円の資金調達を行っている。そしてこの先2025年もしくは2026年度の株式公開を目指しているということだ。

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アイル代表取締役早田氏(アイル提供)
アイル代表取締役早田氏(アイル提供)

 早田氏がベジート事業に取り組んだきっかけは、1998年に九州の有名な海苔メーカーの工場で、海苔を作る機械を使って野菜のシートを作っていたのを見たことだ。「鳥肌が立ったんですね」。当時、早田氏は野村證券を退職後、家業の食品卸を継いでいたのだが、ちょうど新しい事業を考えていたところだった。

 さっそく自分でも野菜を乾燥させたシート食材を、海苔を作る機械で作ってみたが、そのときはうまく行かなかった。その後、改良を重ね、現在使っている機械にたどり着いた。「ゼロから作ったものであり、世界でオンリーワンの機械です」と胸を張った。

 取材の終わりに、早田氏は昨今の食糧危機に触れ、保存性の高いベジートが役に立つ機会があるのではないかと述べた。

「ほんとうは、大きなグローバル企業がベジートみたいなものを考えるべきですよね」と早田氏は言うが、むろんグローバル企業に引けを取るつもりはない。平戸市という町の企業が生み出したベジートで世界を席巻するつもりだ。

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ライター、著者。有限会社ガーデンシティ・プランニング代表取締役。ICT関連から起業、中小企業支援、地方創生などをテーマに執筆活動を展開。著書に「マンガでわかる人工知能 (インプレス)」など。