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普通充電器の普及でEVの「にわとりとたまご」問題の解決を目指す

自社充電器とジゴワッツ柴田知輝氏

自社充電器とジゴワッツ柴田知輝氏

2022年12月に発表された「第43回日本カー・オブ・ザ・イヤー」に、BEV(バッテリーEV)の日産 サクラ & 三菱 eKクロスが選出された。日本でのEV元年、2022年の最後を飾る出来事と言える。しかし「EVを買っても、充電はどこでするの?」という不安がぬぐえないのも正直なところだ。

そんな中、超小型のEV用充電器の普及を目指しているのが、株式会社ジゴワッツ(本社・東京都中央区)だ。ジゴワッツのホームページには「にわとりかたまごか」とある。「充電ステーションが増えないからEVが普及しないのか、EVが普及しないから充電ステーションが増えないのか」というEV界の“にわとりたまご問題”に対し、超小型のEV用充電器で解決をはかると宣言しているのだ。

このたび、大型の資金調達も行い、さらなる事業拡大に踏み出した同社を訪問。代表取締役柴田知輝氏に話を聞いた。

なかなか普及しない「普通充電器」

ジゴワッツ製品Ella(右)と産業用充電器
ジゴワッツ製品Ella(右)と産業用充電器

 ジゴワッツの事業は、EV用充電器の製造販売とカーシェアリング用の車などに採用されている自動車用スマートロックのシステム提供だ。充電器には、主力商品である世界最小クラスの本体サイズを誇る3.2kW出力のEV用普通充電器「Ella」(本体サイズ128 x 80 x 85mm)と、コンパクトながらも~8kWまでの高出力が可能なEV用普通充電器「産業用モデル」(本体サイズ 200 x 150 x 80mm)の2つがある。

充電する際には、専用アプリ「PIYO CHARGE」を立ち上げたスマートフォンを充電器本体に近づけるだけでいい。充電器の設置場所もアプリで検索できる。つまり、設置すればすぐに充電機能の提供と課金・決済が可能になるのだ。ジゴワッツのEV用普通充電器は、すでに全国約150カ所に設置されている。

柴田氏にEV用充電器の普及状況を聞くと、「現在、急速充電器が大体7000基ぐらいあって、普通充電器が3万基弱というところ」とのことだ。2010年に政府が策定した2020年の段階で急速充電器が5000基、普通充電器が200万基』という計画に比べ、「急速充電器の数は目標を達成していますが、一方普通充電器がまったく普及していないのが実情です」

急速充電器は、そもそも出先での充電利用を想定したもので「高速道路を走っていて電池残量が少なくなったので急いで充電」といった時に使われるべきものだ。それに対して自宅の駐車場などで日常充電に使うのが普通充電器だ。

EVの便利さを実感できるようになるには、普通充電器が広く普及し、長時間駐車する戸建てやマンション、会社の駐車場にはあまねく設置される必要がある。柴田氏の目指すところはそこで、普通充電器の普及こそがジゴワッツの事業目的だ。

「こうやってお話している間に、クルマの充電が終わっているという状況がどこの駐車場でもできるようになると、めちゃくちゃ便利ですよね。『なんで今までわざわざガソリンスタンド行ってたんだろう』と思っちゃう。そんな状況を作っていきたい。僕は普通充電器をあらゆるところに置きたくて、そのために小さくて安い充電器が必要ってことで『Ella』を作りました」

ユーザーとして長くEVを体験

自らのEV体験を語る柴田氏
自らのEV体験を語る柴田氏

EVの便不便については、柴田氏は身をもって体験している。大学時代からEVに興味を抱き、大学院で家庭向けの電力供給を最適化する研究をした後、株式会社PFU(石川県かほく市)に入社。コンビニや街頭に設置されるキオスク端末に、充電機能を持たせる研究に取り組んだ。

2010年頃にはEVを購入し、何度となく石川から東京までドライブをしたという。当時はまだ急速充電設備が少なく、高速で電池残量が少なくなり大あわてで、インターを降りて役所で借りた経験もあるとのこと。

その後PFUが充電に関する事業から撤退。どうしても充電器事業をやりたい柴田氏は2014年に起業。創業補助金などを受けながら、EVの充電インフラを作る事業に取り組んできた。

「“そろそろ”かなと思って会社作ったのですが、全然“そろそろ”じゃなかったんです。全然売れないので、受託でハードウェアの製造や開発をやっていました。そして、この2022年がようやく“そろそろ”かな」

ちなみに車用のスマートロックの事業の方は、充電器利用の際に必要となる会員認証の認証基盤技術をそのまま車用のスマートロックに転用したものだ。

利用料は家賃と一緒に引き落としも

 そして2018年にEV用普通充電器「Ella」の発売にこぎつけた。Ellaは戸建てであれば簡単に設置可能。マンション駐車場での利用は、管理組合の承認を得た上で共用部に設置すれば、充電するたびに利用した住民から利用料が徴収できる。

「アプリで支払ったお金(利用料)を一旦弊社で預かり、管理組合にそのマンション分をまとめてお支払いするというパターンもあれば、我々のAPIを使ってマンションの管理システムに組み込んで、家賃と一緒に(利用料を)引き落としするというやり方も可能です」

 Ellaで充電した場合、車種にもよるが1時間の充電でおおよそ20キロ程度の走行が可能になる。日産のリーフであれば一晩で満充電できるという。さらに産業用モデルの充電器であればその2.5倍くらいの速さで充電できると柴田氏は話した。

強みはワンストップ

ジゴワッツが提供するアプリPIYO CHARGE
ジゴワッツが提供するアプリPIYO CHARGE

 ジゴワッツの競合相手は、充電器の製造ではパナソニックや日東工業などの大企業。設置・運用ではユアスタンド、エネチェンジ、テラモーターズなどで、最近はマンションなどへの設置が激戦区だという。その中でジゴワッツの強みは本体機器の製造だけに留まらず、アプリ・API提供など充電器導入に必要とされるサービスを全て提供できるというところだ。

「うちに相談してもらえば、機械製造から設置工事から設定まで、ワンストップで全部やります」

 現在商用車のEV化が進んでいる。何十台ものトラックが夕方同時に帰ってきて、一斉に充電器につないでも大丈夫なように、電力を調整していくシステムが必要になる。ジゴワッツでは規模の大きい需要家の要望に対応してファームフェアの調整などを行う。こうしたきめ細かな対応は大企業では難しく、「使い勝手の良さ」もジゴワッツの差別化ポイントだ。

 今回の資金調達で得た資金の用途については「やっぱり人の部分」と柴田氏は即答した。ジゴワッツのシステムを支えるバックエンド。さらには充電器の製造設計からの改良を行うエンジニアなどの人材が欲しいという。また、一時期ほどではないが、半導体不足による資材不足に悩んだ時期が続いた「ある程度部品の在庫を確保し、大きな需要に備えてタイムリーに出していきたい」。

“追い風”と言われながらも、日本では進まないEVの普及。まずはEVをつなぐ普通充電器の普及・整備に自分たちは全力を挙げるので、整った環境下でのEVの便利さを広く利用者に体感して欲しいというのが柴田氏の願いだ。

ジゴワッツ関連リンク(プレスリリース)

ジゴワッツのEV用普通充電器が、ベンチャー企業で初めて、JARI認証を取得。2023年度に予定されているNeVの充電インフラ補助金対象製品となる見込み(2023年3月29日)

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ライター、著者。有限会社ガーデンシティ・プランニング代表取締役。ICT関連から起業、中小企業支援、地方創生などをテーマに執筆活動を展開。著書に「マンガでわかる人工知能 (インプレス)」など。