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【日本人が知らない 、世界のスゴいスタートアップ Vol.4】IoTで糖尿病治療革命を起こせ!ヘルステック・スタートアップが変える健康管理

【日本人が知らない 、世界のスゴいスタートアップ Vol.4】(写真はイメージです。記事の内容とは直接関係ありません)

【日本人が知らない 、世界のスゴいスタートアップ Vol.4】(写真はイメージです。記事の内容とは直接関係ありません)

 連載「日本人が知らない、世界のスゴいスタートアップ」では、海外のベンチャー投資家やジャーナリストの視点で、日本国内からでは気が付きにくい、世界の最新スタートアップ事情、テック・トレンド、ユニークな企業を紹介していきます。第4回のテーマは「テックが起こす糖尿病コントロール革命」です。(聞き手・執筆:高口康太)

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 年を取ると身体が変わる。アラフィフと呼ばれる年齢になった筆者も、以前と同じ感覚でダイエットに取り組んでも、全く体重が落ちない。最近になって、新たに見つけた方法で10キロほど体重が落ちた。その方法とはウェアラブルバンドとIoT(モノのインターネット)体組成計を導入したことだ。データを可視化でき、今の取り組みが正しいのかが手軽に判断できる。「ライザップ」が運営する「chocoZAP」(ちょこざっぷ)でも、入会するとウェアラブルバンドと体組成計が無料でもらえるが、これも運動効果とダイエットの成果を可視化できる組み合わせだからだと腑に落ちた。

 こうなると欲が出てきて、いろんな健康データを記録したくなる。また、この分野についてより深く知りたいと思い、ベンチャー投資家として世界の最新テック事情、スタートアップ事情にも精通しているマット・チェン(※)さんに、注目のヘルステック・スタートアップについて聞くことにした。IoTウェアラブル機器を使ったヘルステック(健康テクノロジー技術)は、社会全体に大きなインパクトを与えるポテンシャルがあるという。

※鄭博仁(マット・チェン)ベンチャーキャピタル・心元資本(チェルビック・キャピタル)の創業パートナー。米国、中国を中心として世界各地のベンチャー企業に出資している。起業家時代から約20年にわたり第一線で活躍する有力投資家として、中国で「エンジェル投資家トップ10」に選出されるなど高く評価されている。

ビッグテックが狙うヘルスケア市場

――自分で使ってみて改めて、ウェアラブル機器によるヘルステックの威力を実感しました。手首が締め付けられるのは嫌だと腕時計は使ってこなかったのに、今では寝ている時までウェアラブルバンドをつけるほどはまっています(笑)

マット・チェン(以下、M):病院の機器のほうが精度は高いのですが、ウェアラブル機器は365日24時間モニタリングできるという強みがあります。

世界でもっとも普及しているスマートウォッチはアップルウォッチですが、心電図の機能があり、不整脈の早期発見や治療につながったケースが伝えられています。また、日常の健康データを病院と連携する仕組みなど、エコシステムの拡大が続いています。さらに将来的にはアップルウォッチに非侵襲型(針を刺さない方式の)血糖値測定センサーも追加されるとも報じられています。ただし、技術的難易度が高いため、早期の実現は難しそうですが。

検索サイト「グーグル」を傘下に持つアルファベットは、健康データのレビュー、分析、評価を提供する慢性疾患管理ツール「Onduo」を提供しています。韓国サムスンは血糖値管理アプリの米国Welldoc社と提携しています。

ヘルステックは今、ビッグテックがこぞって参入するホットな領域なのです。

――中国のビッグテックも積極的です。テンセントは以前、ソーシャルメディア「ウェーチャット」で血糖値を記録できるソリューション「糖大夫」を展開していました。このプロジェクトは失敗に終わりましたが、類似のビジネスを展開する医療機器メーカーの微泰医療機械に出資するなどヘルスケア領域への関心は失っていません。ファーウェイはウェアラブルバンドのトップブランドですが、病院に売り込むB2B(企業向け)ビジネスに積極的です。安価で、しかも取り回しのきくウェアラブルバンドで入院患者の管理ができるのは病院にとって魅力的でしょう。

M:大手企業だけではありません。スタートアップも多くの興味深いソリューションを生み出しています。その中でも特に注目しているのが糖尿病関連です。

国際糖尿病連合(IDF)が2021年12月に発表した「IDF糖尿病アトラス 第10版」によると、世界の糖尿病患者数は5億3700万人にまで増加しました。しかも、患者数はさらに増加し、2045年には7億8300万人に達すると予測されています。糖尿病はさまざまな合併症を引き起こす恐ろしい病気で、2021年だけで670万人が糖尿病関連の要因で死亡したと推定されています。

糖尿病は紀元前から人類を苦しめてきた病です。伝統中国医学では「消渇」(シャオクー)と呼ばれますが、古くは漢代の書『淮南子』(えなんじ)にも記載があるほどです。残念ながら一回発症してしまえば完治はできず、生涯にわたって運動や食事、薬によって血糖値をコントロールする必要があります。

データが無ければ始まらない

――私の親族にも糖尿病患者がいますが、忙しかったりするとついつい(血糖値など)記録を忘れてしまうと嘆いていました。

M:それも責められないですよね。1日や2日の話ではなく、長年にわたり生活習慣をコントロールするのは容易なことではありません。この社会的課題を解決するべく創設されたスタートアップ「Health2Sync」(智抗糖、日本法人はシンクヘルス株式会社)に注目しています。

同社は2013年6月、台湾で創業しました。創業者のエド・デン(鄧居義)は「親族の多くは糖尿病にかかり、それが原因で亡くなった方も。一族には医者が多かったのにそれでも糖尿病を解決できなかったことが起業の動機になった」と話しています。

毎日、血圧や血糖を測るのは大変です。ほとんどの場合、患者が残した記録は途切れ途切れとなりますし、日々の食生活もわからないとなれば、主治医も薬の増減など治療方針を決めることも困難です。

「データがあって初めて行動できる」がエド・デンの考えです。「慢性疾患の管理はつまるところ行動管理につきます。そのためにはツールのデジタル化、自動化が絶対に必要です」

――確かに自分の体験でも、性格を変えるよりもツールを変える方が効果的だと感じました。

M:Health2Syncのコア・プロダクトはスマートフォン・アプリです。第三者企業が販売しているインターネット接続機能を持つ血糖測定器、インスリン注射器、血圧計、体重計と連携し、自動的にデータを収集、記録します。また、アップルヘルスやグーグルフィットなどのヘルスケア・アプリとも連携可能で、運動記録も集約できます。これらの情報をもとにアプリからは生活改善の指示が通知されるのです。

また、クラウドサービスも開発されました。患者が同意した場合、アプリのデータはクラウドを通じて提携病院と共有されます。病院での検査だけではなく、日々のデータをもとに適切な治療方針を策定することができるようになるわけです。全世界で400以上もの病院と提携しています。

創業から10年、Health2Syncアプリのユーザーは全世界で100万アカウントを突破しました。アジアでは最大の慢性疾患管理プラットフォームへと発展しています。日本のSOMPOホールディングスも出資するなど、国際的に注目されるスタートアップです。

新型デバイスで知る、自分の身体

M:Health2Syncはアプリ、クラウドというソフトウェア側からの取り組みでしたが、デバイスにも今、大きな変化が起きています。米製薬・ヘルスケア大手アボットは2017年に「FreeStyleリブレ」という持続グルコースモニタリング(CGM)機器を発売しました。

――CGMとは?

M:小さな針が付いた、ちょっと大きめのボタンサイズの機器です。体に貼り付けておくと、24時間リアルタイムの血糖値変動を計測できます。携帯電話サイズの読み取り機を近づけると、ワイヤレスでデータを吸い出せます。測定器は使い捨てで、1回貼り続けると連続で14日間駆動します。防水機能もあるので、その間にお風呂に入ることも可能です。簡単でしかも24時間の血糖値変動を記録することができますし、リーダーをかざせばいつでも、リアルタイムで血糖値を知ることができます。

一回貼り付ければ手間要らずで記録ができる。データ記録の自動化を目指すHealth2Syncにとってはまさに理想の機器でしょう。ただ、スタートアップが大手企業のアボットと提携するのは容易なことではなく、3年間にわたる交渉の末にようやく連携の合意をとりつけたのだとか。

このFreeStyleリブレを使って、台湾では「14日間血糖探索計画」というプロダクトをリリースしています。糖尿病にかかっていない健常者を対象としたもので、「どんな食事をとったら、血糖値がどう変動したのか」「運殿効果は?」といった、普通は知ることのない自らの体について知り、生活を見直すきっかけにしようというものです。

今年7月には台湾のダイエット支援診療所と提携した取り組みも始まりました。FreeStyleリブレを使って血糖値をモニタリングし、ダイエットに取り組む人が自身の食事や体について考えるサポートする取り組みです。同じ食事をとってもどのように血糖値が上がるのかは個人差があるので、事前に体質を理解することが欠かせませんが、血糖値によって正しくダイエットができているかを知るてがかりが得られます。このようにウェアラブル機器を使った健康データは、慢性疾患患者以外での活用も見込まれます。

――何を食べたら体にどういう反応があるのか、わかるのは面白いですよね。

M:また、収集された健康データを活用したインシュアヘルス(保険+健康)の模索も続いています。血糖値を一定以下に抑制すれば保険料が安くなるといったインセンティブを整えることで、患者がより積極的に健康管理に取り組むよう動機づける仕組みなどが検討されています。

ヘルスケアは巨大マーケットですが、テックの力を使った革命が始まりつつあると感じています。Health2Syncを筆頭に、新たなアイデアと技術を活用したスタートアップが次々と登場してくると確信しています。

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 糖尿病など、古くから人類を悩ませてきた病。特効薬や革命的な治療法が見つかるのが一番だが、簡単な話ではないという。ただ、生活習慣の改善もテックがサポートしてくれるというのは意外な盲点だった。私個人に関していえば、以前にはコンピューターに指図される人生なんて……。との思いもあったが、実際にスマホのヘルスケア・アプリの力を借りてみるとなかなかに快適だ。

 健康管理、生活改善でのアプリやIoT機器の導入は今後、ますます加速するように感じている。

Written by
ジャーナリスト、千葉大学客員准教授。2008年北京五輪直前の「沸騰中国経済」にあてられ、中国経済にのめりこみ、企業、社会、在日中国人社会を中心に取材、執筆を仕事に。クローズアップ現代」「日曜討論」などテレビ出演多数。主な著書に『幸福な監視国家・中国』(NHK出版、梶谷懐氏との共著)、『プロトタイプシティ 深圳と世界的イノベーション』(KADOKAWA、高須正和氏との共編)で大平正芳記念賞特別賞を受賞。