サイトアイコン DG Lab Haus

企業の雇用継続にもメリット AIサポート恋愛ナビ「Aill goen」が利用拡大

イメージ図(本文とは関係ありません)

イメージ図(本文とは関係ありません)

 ワークライフバランスの重視や働き方の多様化を背景に、企業の福利厚生メニューにも変化が見られるようになってきた。特に興味深いのが、独身の従業員がパートナーと“出会う場”の提供に力を入れる企業が増えてきたことだ。もともと企業の福利厚生メニューには、結婚相談所や婚活パーティの斡旋も含まれていたが、今はそれらに加え“恋愛のプロセス”をAIがサポートするサービスの導入も進んでいる。

 株式会社Aill(東京都中野区)が提供する企業向け恋愛ナビゲーションアプリ「Aill goen(エールゴエン)」もそうしたサービスのひとつ。同社は2025年3月31日より、東海エリアでも企業向けのサービス提供を開始した。これまで関東、関西、九州エリアの1300社以上の企業に導入してきたが、今回の東海エリア参入でさらなる利用拡大を目指す。

 当媒体では、Aillがサービスを開始した直後の2018年(『「恋愛に傷つきたくない世代」をAI(人工知能)でサポート〜恋愛ナビゲーションサービス「AILL(エイル)」』)や、九州エリアに進出した2020年に(『九経連も“AI婚活”を開始 福利厚生に導入されはじめたAI恋愛ナビゲーションサービス』)取り組みを紹介している。

 同社が事業を拡大できたポイントはどこにあったのか。サービス内容にどういった変化があったのか。また、今回の東海エリア参入においてどのようなことに注力したのか。代表取締役の豊嶋千奈氏に聞いた。

相手の本音を“裏取り”する特許システム

 最初に「Aill goen」がどういうものか振り返っておこう。

 一般的な婚活アプリやマッチングサービスでもAIが相性のいい相手を提示してくれる機能はあるが、その多くはマッチング後のやり取りは当人たちに任されている。しかし「Aill goen」では、出会った後のやり取り、つまり“恋愛に発展するまでのプロセス”もAIがサポートしてくれる。

 具体的には、他の企業に所属する独身社員をAIが紹介する「紹介ナビゲーション」、チャット上でのコミュニケーションをAIがアシストする「会話ナビゲーション」、気になる異性の好感度をAIが可視化してする「好感度ナビゲーション」により、恋愛関係へと進むよう支援してくれる仕組みとなっている。

 現在豊嶋氏らは「Aill goen」で提供している「AI」を、ユーザー同士の「共通の友達」という位置付けで展開している。

Aill代表取締役の豊嶋千奈氏(画像提供:Aill)

「高校や中学校の頃に、クラスの気になる子にアプローチするときに、その子と自分の“共通の友達”に仲立ちしてもらい、相手の情報や気持ちを聞き出してもらったことはないですか。たとえば、その友人から『向こうもその気があるみたいだから、早く告白した方がいいよ』とか『今はまだデートに誘うのは早いよ』といったアドバイスをもらった経験がある人も多いでしょう。そうした“共通の友人”が担っていた役割を、AIに置き換えたのが私たちのサービスということになります」(豊嶋氏)

 ちなみに「Aill goen」では、サポートする二人の関係を「チャット開始」「異性として意識」「デートに行く関係」「お付き合い」といったフェーズにわけており、AIは二人の会話をサポートしながら、そのフェーズを前に進めるよう設計されている。加えて「ユーザーの本音をAIが聴取するシステム」を搭載していることも大きな特徴だと豊嶋氏は強調する。

 たとえば、二人のチャットを見ながら「そろそろ男性が女性をデートに誘ってもよさそうな頃合いだ」と感じたときに、AIは男性側に「デートに誘った方がいいよ」とすぐにアドバイスすることはない。その前にAIは女性側の意向を確認し、女性が「会ってみたい」と回答したならば、男性側に「すぐにデートに誘った方がいい」とコメントする。つまり“裏取り”をし、ほぼ確実にOKがもらえる状態になったうえで、後押しする仕組みになっているというわけだ。

「私たちはこの『ユーザーの本音をAIが聴取するシステム』で、2022年8月に国内特許を取得したほか、アメリカでも特許を取得しています」(豊嶋氏)

事業を拡大できた一番のポイントは?

 こうした「恋愛でほぼ確実に失敗しない」仕組みが若い世代に広く支持されたことに加え、Aillが掲げる提供価値と企業ニーズが合致したことも「Aill goen」の導入が進む要因だと豊嶋氏は分析する。

「Aill goen」は、企業が提供すべき福利厚生をもれなく導入している「法定福利厚生制度を遵守する企業」にのみ提供されている。そのためサービス利用する男女が勤める企業は、福利厚生メニューが豊富かつ「共働き」「共育て」へのサポートも制度化されている。つまりサービスを利用して成立したカップルは(男女どちらも)育休後の職場復帰などがしやすく、雇用が継続されやすい。このことが企業側に大きなメリットをもたらすという。

 さらに導入が進む2つ目の理由として「ワークライフバランスを重視する若者に採用PRできる」点も挙げられるという。豊嶋氏によると、現在の若者は以前よりもワークライフバランスを重視する傾向にあるが、そうした若者世代に対して、たとえ転勤があったとしても「転勤先でのパートナーとの出会いの機会が提供される」といった福利厚生メニューが用意されていることが「従業員の“ライフ”を大切にしている」というPRにつながるとのことだ。

 そして3つ目が「人的資本経営の“独身者”向け施策」として導入できる点だ。人的資本経営やウェルビーイング経営では、あらゆるライステージへの支援が求められる。しかし、既存の福利厚生メニューには、結婚後の支援は充実しているものの「独身者向けのものがほとんどない」と豊嶋氏は指摘する。

「Aill goen」の提供価値(画像提供:Aill)

「そのぽっかり空いていた部分に私たちの『Aill goen』がはまったのです。今企業における独身者の割合は“3割以上”にまで増えていると言われています。つまり企業内のマジョリティとなりつつあるわけですね。そこに対する支援が足りないと多くの企業様が気付き始めたことが『Aill goen』の利用が広がる大きな要因だと考えています」

「男女比の偏り」が最大の課題

では今回の東海エリアへの参入では、どういったところに注力したのだろう。豊嶋氏は、東海エリアの課題のひとつとして「企業内の男女比率が偏っている」ことを挙げた。

「関東や関西エリアはそんなに気にしなくて良かったのですが、東海エリアはやはり重工業に関わる企業がとても多い。そのためだと思うのですが、男性の割合がとても多いのですね。この偏りをどう解消するかが大きな課題だと考えています」

 これを解決するため、豊嶋氏らは病院や公務員など比較的女性の比率が高い企業の導入を積極的に進めている。

 豊嶋氏は今回の東海エリアでの参入モデルを上手く構築できれば、他のエリアにも転用でき「日本全国に利用を拡大できる可能性が生まれる」と話す。「だからこそ、東海エリアへの導入はぜひ成功させようと皆で頑張っているところです」

 今後Aillでは、本流の「Aill goen」の利用拡大のほかに、各地の状況に合わせた“ご当地版”の恋愛ナビゲーションアプリや、結婚後のさまざまなライフステージもフルサポートするようなビジネスの構築も目指すとのことだ。

 AIを活用した恋愛ナビゲーションサービスが、社会の価値観やニーズの変化に合わせこの先どう進化していくのか。引き続き同社の取り組みを注視したい。

モバイルバージョンを終了