
写真は上海で開催された「世界人工知能大会(WAIC)」のロレアルのブース。7月17日撮影。REUTERS/Go Nakamura
[ロンドン 27日 ロイター] by Helen Reid – 人工知能(AI)によって生成されたファッションモデルが、ブランドに魅力的な商機をもたらしている。人間のモデルを起用した撮影に比べてコストを90%以上抑えながら、販売サイト向けのリアルな画像を作ることができるためだ。
一方でファッションモデルらは、自身の肖像が無断で複製されたり、全てAI生成で作られたモデルに取って代わられたりするリスクにさらされている。AI生成されたモデルや、「デジタルツイン(デジタル空間の分身)」の所有権や利用を定める規制が不十分な中、この技術はモデル業界そのものを揺るがす脅威となりつつある。
AI活用に伴うファッションモデル業界の収益構造への影響を調べるため、ロイターはモデル事務所の責任者15人に取材したほか、AIによる画像改変や将来的な利用に関する条件について、ディーゼルやカルバン・クライン、ロレアル などが示した十数件の非公開の撮影契約書を確認した。
各社が提示した契約条件には、AIでモデルの顔を別人の顔に差し替える権利、モデルへの追加報酬なしにデジタルクローンを作成する権利、そしてAI学習にモデルの身体画像を使用する権利なども含まれていた。未署名の契約書には、ブランドが事実上、AIをほぼ自由に使える余地を生みかねない、包括的な法的文言も記載されていた。
既存のモデルの画像を転用・加工しようとする企業がある一方で、実在の人物を基にしない、完全にAIで生成されたモデルを採用する企業も出ている。
AI活用の拡大に伴い、モデル事務所では仕事の依頼が減り、撮影スタジオは閉鎖に追い込まれている。モデルにとっても、次々と新作をサイトに掲載するファストファッション企業の撮影という重要な収入源が失われつつある。
ロンドンを拠点に活動するモデルのアドット・ガクさんは、「1年以内、早ければ今後6カ月で、モデルの仕事は減る。中でも最大の収入源である電子商取引(EC)の仕事が減少するだろう」と懸念を示した。ガクさんはファッション誌「ハーパーズ・バザー」の表紙を飾り、仏高級ファッションブランドのバルマンやスウェーデンのファッション大手H&Mの広告キャンペーンにも起用されてきた実績がある。
「いま声を上げなければ、業界全体は2年以内にボットだらけになってしまう」
スペインのアパレル大手「MANGO」など、一部のファストファッション企業がAIモデルを大規模導入する一方、高級ブランドは慎重な姿勢を保っている。イタリア高級アウターウェアグループのモンクレールは2023年、いち早くAI生成のキャンペーンを試験的に展開した。仏ケリング傘下のグッチも今年、AI画像をインスタグラムに投稿し、業界内で論争を呼んだ。モンクレールは現在、公式サイトや広告キャンペーンで現在AI生成モデルは使っていないとしている。グッチはコメントの要請に応じなかった。
「最も恐ろしいのは、もはや本物のモデルとAI生成のモデルを見分けられなくなっていることだ」とガクさんは語る。
AIを活用すれば小売企業は、新たな撮影にかかる費用のほんの一部で、異なる衣装を身にまとったモデルの画像を何度でも作り直し、使い回すことができるようになる。
バルセロナのモデル事務所ウニコ・モデルズを経営するパトリック・スタール氏は、「撮影後にAIで顔や体形、肌、年齢、表情を変えたいと求めてくるブランドがある一方で、追加制作なしで後から再利用できるモデルのデジタルツインを作れないかと相談してくる企業もある」と話す。
ディーゼルは、ある写真撮影のキャスティングシートでモデルらに対し、「顔立ちや体のプロポーションの変更または再構成」のほか、「参加モデル同士の顔の入れ替え」、「参加者の顔を別人の体に合成すること」への同意を求めたという。ディーゼルの親会社OTBはロイターに対し、この同意書は特定のキャンペーンのために作成されたもので、同社の通常の契約内容を示すものではないと説明。AIによるモデルの修正を恒常的に行っているわけではないと否定した。
ソーシャルメディアのインフルエンサー、アリックス・アールさんが今年立ち上げたスキンケアブランド「リアル・アクティブズ」は、「Reale you is perfect you(ありのままのあなたが完璧なあなた)」とのキャッチコピーを掲げている。だがロイターが確認した契約書によると同ブランドは、モデルのAI生成レプリカを作成した上で、追加報酬を払わずに1年間、これらを「所有」し、使用する権利を求めていたという。
リアル・アクティブズは声明で、実在のモデルを起用しており、AIでモデルを複製した実績はないと述べた。また、契約書の文言は提携制作会社が作成したものであるとし、その社名については明らかにしなかった。
モデル自身が、自分の代わりとなるAIの学習を手助けしてしまう事例もある。一部契約書の細則に、AIツールの訓練に自身の画像を使用することを許可する文言が含まれている場合があるためだ。
ロイターが確認した米カルバン・クラインの契約書草案ではモデルらに対し、追加報酬なしに、顔や傷、タトゥーなどの識別可能な特徴がない、モデル本人を特定できない画像について、一般的なモデルの属性を学ばせるAIツールの学習や調整に利用できるとする条件への同意を求めていた。
カルバン・クラインの広報担当者は声明で、「他の多くの企業と同様、急速に進化する分野で試行錯誤を重ねている」と説明。AI利用については規制や業界基準、モデルの権利尊重に基づいて行われているとした。
多くの場合、契約書には「~を含む」や「~に限定されない」といった表現が盛り込まれている。これは一般的に、弁護士らが明記されていない権利を主張する際に用いるものだ。
米ロサンゼルスの法律事務所「ローブ&ローブ」のパートナー、メラニー・ハワード氏は、こうした包括的な表現について、「曖昧であるがゆえに危険だ」と話す。高級ブランド部門の責任者を務め、契約交渉でブランドとタレントの双方を代理する同氏は、モデルが画像の無断利用に異議を申し立てることを難しくすると指摘した。
ロイターが入手したある撮影契約書では、仏化粧品大手ロレアルが、化粧品やパッケージ、色合いの見た目を変更・改善・調整する目的や、レタッチを目的としたAI技術の使用権を求めていた。ロレアルは契約文言そのものへの回答は避けたが、モデルの肖像に影響しない、編集や後処理の段階で標準的なAIツールを使っていると説明した。
一部の企業は、モデルに代わってAIを積極的に導入し、コスト削減を図っている。
欧州最大のオンラインファッション小売企業ザランドは、マーケティングコンテンツ向けにAI画像を速やかに導入し、昨年、ベルリンの撮影スタジオ2カ所を閉鎖した。昨年7月にザランドが買収したファストファッション小売業者「アバウト・ユー」も自社スタジオを閉鎖した。ザランドは全体で340人を超える雇用を削減したが、一部の従業員は他の役職に配置転換したとしている。
アバウト・ユーは、AI生成モデルを使って他社向けのデジタル画像を制作する「スケール・スタジオ」事業を始動させている。制作コストを90%超削減できるという。同社広報担当者によると、スケールの顧客ブランド数は現在130社で、先月だけで19万着の衣装画像を生成したという。
同社のマーケティング部門の副責任者、ジュリアン・ヤンセン氏は「大幅なコスト削減になっている」と語る。
「非常にスピード感のあるECの世界と、極めて時間のかかる従来の撮影手法は、これまでかみ合っていなかった。AIの登場により、その規模は大きく変わった」
世界的に見て、規制はモデルの生計を脅かすAIの進展に追いついていないが、米ニューヨーク州の「ファッション労働者法」は例外の一つだ。同法は25年6月以降、ブランドがモデル本人の明確な同意を得ずに、その複製を作成・改変することを違法としている。
この法案を支持したニューヨークの非営利団体「モデル・アライアンス」の創設者兼事務局長、サラ・ジフ氏は「モデル画像の不正利用は以前からあったが、AIによって問題の深刻化は10倍に加速している」と指摘する。自身も長年モデルとして活動してきたジフ氏は、他の州や連邦レベルでも同様の法律の制定を推進している。
英国ファッションモデル・エージェント協会(BFMA)はAI行動規範を策定。これにはAI利用にはモデルの同意を必要とし、作成されたデジタルツインの所有権はモデル本人に帰属することなどが含まれている。ただ、BFMAのジョン・ホーナー代表は、英国や欧州で拘束力のある規制がない限り、モデルは依然として良識に欠けるエージェントに付け込まれる恐れがあると警告した。
「多くの若い才能あるモデルたちは、長期的な影響をまだ十分に理解していない」と、バルセロナのモデル事務所ウニコ・モデルズのスタール氏は懸念する。「20歳でAIに関する権利を手放す契約に署名してしまえば、その影響は10年後も続く可能性がある」