ブロックチェーンを使ったソーシャルメディア(記事投稿・評価のプラットフォーム)ALISは4月23日、利用者を限定したクローズドβ版を公開し、あわせて東京都内で記念イベントを開いた。β版には定員の5000人が登録し、初日に500件の記事が投稿された。サイトは10月にはだれでも登録できるようオープン化する。また現在、ブロックチェーンと仮想通貨に限っている記事ジャンルも広げる予定という。
ALISのビジョンとロードマップ
ALISを運営するALIS社(東京都渋谷区)は2017年、国内初とみられるICO(Initial Coin Offering、仮想通貨による資金調達「新規仮想通貨公開」)で約4.3億円(当時のレート)の調達に成功したことでも話題となった企業で、今回のβ版が初のプロダクトとなる。
記念イベントにはユーザーやメディア関係者ら約400人が集まり、関心の高さを示した。安昌浩CEOは「社会関係資本(人が信頼に基づきフラットにつながる関係、社会的ネットワーク)が注目される時代が来る。社会関係資本を広げるために信頼を可視化し、新しいつながりをつくるのがALISのビジョン」と語った。
ALISは、評価が高いコンテンツの投稿者と、そのコンテンツをいち早く評価したユーザー(キュレーター)にトークン(ここでは仮想通貨とほぼ同義、単位はALIS)が配布される仕組み。良いコンテンツを投稿し、評価しようというインセンティブが働くことを期待し、広告に頼らないメディアプラットフォームの確立、フェイクニュースの排除を目指す。
安CEOは、これを実現するため①価値を提供した人に報酬が支払われる「価値主義」②中央集権的にコントロールしなくても発展する「自律経済圏」-の2点を強調。この2つの特徴を持った経済圏を「トークンエコノミー」と呼び、ユーザー・コミュニティとともに「サービス共創」を進めるという。「株主の利益最大化が目的である株式会社では株主、従業員、ユーザーのゴールはそれぞれ違うものとなる。コミュニティの価値向上を目的とするトークンエコノミーであれば従業員と投資家、ユーザーのゴールが一致する」と期待する。
今後、コンテンツやキュレーターの評価ロジックの改善を続けながら、将来は有料記事のトークン購入、トークンによる記事リクエスト、他媒体の記事への投げ銭といった機能を実装し、「ALISで書きたいというモチベーションを上げていきたい」と話した。
共創で作り上げるプラットフォーム
ALISは、サービスや価値をユーザー・コミュニティと「共創」することを強調する。そのため、Trelloやtwittr、さらに国内外のミートアップで、事業活動、プロダクトの開発プロセスを公開し、事業メンバーとユーザーが同じ情報、課題を共有することにこだわった。ALISのGoogle Analyticsデータも公開されている。
水沢貴CMOは「目標として、10年後にALISって何だっけ?と聞かれた時に、信頼できる記事と人を明らかにし、トークンエコノミーにおける価値共創の仕組みをつくった、と言われたい。プロダクトはまだ不十分だけど、みんなでつくること、コミュニティとの価値共創を大事にしたい。そうすることで、驚くくらいの結果を出せる。ALISはプロダクトではなくコミュニティ」と述べた。
ALISは、リクルート出身の安CEO、水沢CMOら30歳前後のメンバーが立ち上げた。同じくブロックチェーンを使った米国のプラットフォームsteemit をモデルにしている。steemitには、西日本新聞社(福岡市)が記事配信実験を行うなど、日本でもトークンによる記事評価の仕組みに関心が集まっている。さらに米国では、伝統メディア出身のジャーナリストが参画し、分散型ジャーナリズム・プラットフォームをうたう「Civil」が2017年、500万ドルを調達したと発表。「広告に依存しない自立的なジャーナリズム・プラットフォーム」を目指すという動きもある。
プラットフォームを支えるトークンエコノミー
トークンエコノミーとは一般に、サービス提供者が発行したトークンをユーザーが購入し、通貨の代わりにトークンによって取引を行う経済圏を指す。コンテンツ投稿プラットフォームの場合、トークンによってコンテンツ制作者と評価者に参加インセンティブが働くほか、コミュニティの価値が上がるほど参加者が増え、ネットワーク効果によってトークンやコミュニティの価値がさらに向上するという循環が期待される。
ALISのように、実際にユーザーが集まり循環するトークンエコノミーが登場したことで、日本でもトークンエコノミーの可能性や課題に関する議論が活発になることが期待される。イベントで仮想通貨に詳しい河合健弁護士(アンダーソン・毛利・友常法律事務所)は「ICOやブロックチェーンが社会に根付くために、実際に動くもの、使えるものが出ることが必要。ICOは投機的と考えるような社会の意思決定する新聞的考えの人たちに、良いものを見せていかないと変わらない。そういう意味でALISを最大限サポートしたい」と期待を寄せた。
またこのイベントで、基調講演を行なったサイバーエージェントビットコインの卜部宏樹社長は、来年度にもサイバーエージェント社の独自通貨を発行すると明らかにした。同社は検討していた取引所事業参入を断念。「取引所は競争が激化し、(コインチェック事件の影響で)金融庁の新規登録も止まっている」とした上で、「トークンエコノミー、仮想通貨が話題となっているが、本当に使ったことのある人は少ないのではないか。サイバーエージェントとしては、エンターテインメントと金融の可能性を広げるエンタメ金融として、メディアで使われるような独自通貨を発行したい。仮想通貨が使われる未来を信じて参入したい」と述べた。