人間と人工知能(AI)が俳句を詠み合い、その出来栄えを競うイベントが7月13日、北海道大学で行われた。このイベントは「AIのMIRAI、俳句の未来―俳句対局@in北海道大学―」と名付けられ、SAPPORO AI LABなどが主催した。2月にNHK総合の番組「超絶 凄ワザ!」で人類vs AI 対決のひとつとして俳句対決が行われ人類が勝利を収めたが、今回のイベントはその続編。
将棋や囲碁といった論理演算、画層認識などの分野では人間を圧倒しているAIも、感性や創造性の分野ではまだまだ発展途上。俳句AIを開発する北海道大学大学院情報科学研究科の川村秀憲教授は、その理由を「人の気持ち、ココロを理解するというAIが未着手の課題への挑戦。人類がどんな原理で知能を獲得してきたのか、人間そのものを研究することにもつながる」という。さて、俳句をめぐる人類チームとAIの戦い、勝負の行方は―。
川村教授らは昨年から、俳句AI「一茶くん」を開発。小林一茶や高浜虚子などの12万句を深層学習(ディープラーニング)によって学習させている。
以下は、イベントで詠まれた10の句。どれが人間、AIが詠んだのか区別できるだろうか。
対決は俳句の聖地・愛媛県松山市から集まった俳人5人の「人類チーム」と「一茶くん」による「しりとり俳句」。句の最後の2文字を次の句の最初に使うルール(時間制限、しりとりできない場合の減点などあり。詳細は 北海道大学調和系工学研究室のサイト)で、互いに5句ずつ計10句を詠み、それぞれの出来栄えを4人の審査員が評価、総合点を競った。
「一茶くん」は開発当初、風景や花鳥風月の写真から句を詠む学習をした。今回のしりとり俳句に合わせて、1秒間に約40句、自動生成する句から、相手のおしり2文字を入力すると、それに対応した句を評価値順に表示するシステムを新たに開発。その中から研究グループが良いと思われる句を選んだ。
対決は、正岡子規の「瓜くれて 瓜盗まれし 話かな」からスタート。先手は人類、後手「一茶くん」で対戦が行われた。
※冒頭の句の奇数は人間、偶数はAIが、それぞれ詠んだ句。
7番目の人類チーム「仮名の裏 がえりをそむ子人ら 梅雨晴間」から、8番目のAIは「山肌に 梟のこげ 透きとほる」。AIはしりとりができずギブアップして減点1.0に。10句まで詠み合い、人類チームが時間制限にひっかかって0.5の減点。総合点は人類34.50、AI31.75で人類の勝利となった。
ただ、10句の中では、AIの「かなしみの 片手ひらいて 渡り鳥」が最高点を獲得、一矢を報いた。
AIや俳句の研究者らによる感想戦では「AIの句は開発当初に比べ、ひらがなが多くなかった印象。(10番の句の)『かなしみ』『ひらいて』など、意図はないはずだが、ぱっと見ると『おおっ』と思わされる」「季語との距離感が開発当初よりはるかに良くなっている」「全体的に どれがAIの句か分からない」「人間を楽しませるという意味で一茶くんは100点満点。コンピュータがつくった俳句が人を楽しませた」といった声が出た。
俳句甲子園 2013年、2017年学生俳句チャンピオンで「群青」同人の大塚凱(東京大学)さんは、AI俳句について「(当初より)言葉がこなれ、違和感がなくなっている。新しい句として受け入れたい」と評価する。その上で「言葉が人間のものではなくなる、言葉を操る人間の存在に疑いが生じる恐れがあって、AIに否定的な人もいる。しかし、そういう揺さぶりがあるからこそ、その先に人間の表現の新しいステージがある。そういうモチベーションでAIと付き合いたい」という。
人類とAIの対決に先立ち、イベントでは俳句やAIの専門家らが講演した。日本のAI研究の第一人者、公立はこだて未来大の松原仁教授は「知能は理性と感性に大別される。将棋や囲碁は理性の代表で、AIで扱えるようになってきた。創造性、感性を扱うことが、これからのAI研究で重要になってくる。感性も創造性も人類の進化の過程で獲得された合理的な能力。とても難しいかもしれないが、コンピュータが持てない理由はない」と述べた。
チェスのIBMディープ・ブルー対ガルリ・カスパロフ以来、将棋の電王戦、囲碁の電聖戦など人類と機械が対決するイベントは、AIの進化を図る科学実験として、またエンターテインメントとして関心を集めてきた。俳句をテーマにしたAI研究と人間との対決は、感性・芸術分野での人間との競争、共生の第一歩になるのかもしれない。
参考
・「北海道大学が俳句AIを開発する理由 一人称視点とマルチモーダルな情報処理」(DG Lab Haus )
・SAPPORO AI LAB「AI の MIRAI、俳句の未来 – 俳句対局 in 北海道大学 – 」開催のお知らせ
・調和系工学研究室 – 北海道大学大学院情報科学研究科 情報理工学専攻 複合情報工学講座