2020年10月20日、株式会社デジタルガレージが主催するシードアクセラレーターブログラムOpen Network Lab。その21期生によるデモデイが開催された。今回は新型コロナウイルス対策のため、オンラインで実施。応募180チームのうちから採択され、3ヶ月間のプログラムを終えた6チームがピッチを行った。
最初に株式会社RambleOn代表取締役屋冨祖(やふそ)和弥氏が登場。アソビスタと呼ばれるパフォーマーと、子どもたちとがオンライン上で一緒に遊べる同社のサービス「Asovivit(アソビビット)」を紹介した。
共働きの子育て世代は、家事で手いっぱいであり、忙しい日常に対応した適切な学びが少ないことが問題。Asovivitは、いつでもどこでも子どもたちが主体的に参加できるオンラインライブサービスだ。幼児教育専門家がコンテンツを作成し、パフォーマンス指導の専門家がパフォーマーのスキルを生かすプログラムを考案する。そして、子どもたちが夢中になる仕掛けを工夫したライブ配信を行っていく。このプログラムにはサービスリリース後4週間で500名以上が有料参加し、満足度については、回答者140名につき平均4.6(5点満点)だという。
さらに「習い事」「テレビ」「YouTube」という競合に対し、「子どもの主体性」「コンテンツの質」「利用のしやすさ」を比較すると総合的にAsovivitが優位であると説明。将来的には、タレントビジネスなどの事業の多角化、小学生、高齢者向けなど事業ドメインの多角化を考えていると未来プランを述べた。
続いて東京大学農学部獣医学課程に在籍中であり、ペットサービス探しのコミュニティアプリ「parnovi(ぱるのび)」を展開する株式会社parnovi 代表取締役の遠藤玲希央氏が登場。
ペットの飼い主は「うちの子に合うごはんが見つからない」と悩んでおり、これを「フードジプシー」というと説明。このように犬・猫の飼い主で、何らかのペットの悩みを抱えている人は約70%にのぼるという。さらに、悩みを解決するためにネット検索をしても、信ぴょう性のある情報にたどりつけないという問題も。
そこで考案したのがparnoviだ。信頼できる飼い主仲間の写真投稿から、”うちの子”に合うドッグフードやお出かけ先を探せる新しいSNSだ。画像から自分のペット飼育状況に近い投稿者を見つけ出し、悩みを早期に解決しようとするものだ。
parnoviは、投稿者と閲覧者、そしてペットサービス事業者のエンゲージメント(結びつき)を作る。そしてペットサービス事業者向けの集客ツールとして提供しマネタイズの機会を創出し、将来的にはペットに関するスーパーアプリにしていきたいと遠藤氏は語った。
続いて登壇したのは、「oVice(オヴィス)」を展開する株式会社NIMARU TECHNOLOGY代表取締役のジョン・セーヒョン氏。
テレワークが普及してきたが、テレワークに使用するツールは、目的意識の強いコミュニケーション向けのものに偏っており、立ち話や喫煙所での世間話、思いつきのやり取りなどの偶発的なコミュニケーションに対応していない。
oViceはオフィス空間の特徴をオンラインで再現し、リモートワーク中もリアルなオフィス体験が得られるサービスだ。例えばバーチャルのオフィス空間に自分のアバターを参加させ、誰かと話していると同じ空間にいる他の人たちの話し声が聞こえる。つまり、通常のオフィス空間での業務環境が再現できる。セーヒョン氏はユースケースとしてビジネスセミナーや学会などにもこのサービスを広げたいと語った。
ちなみにこの日のデモデイ後の懇親会は、oViceで行われた。参加者のアバターが集まっているところに自分のアバターが近づくと、話声が聞こえてきて、離れるとだんだん声が小さくなる。目的の人を見つけ「この人と話そう」という時には画面が立ち上がり、自然にビデオ会議へ移行するというシームレスさを実感できた。
続いて「theLetter」を展開する株式会社OutNow代表取締役濱本至氏が登場。theLetterは、ライティングスキルを持った個人向けのサービスで、ニュースレターでの有料メディア運営を支援する。メディアの業績が悪化し、雑誌など紙媒体などが減少。ライターやジャーナリストなどの執筆活動の場が減り、原稿料も下がる一方だ。自らマネタイズしたくても、noteやまぐまぐ、オンラインサロンなどその手段が限られている。
theLetter は、個人が自由な発信でマネタイズできる「次世代型パブリッシングツール」だと濱本氏は説明する。その機能としては「プロモーションのノウハウ支援」「ニュースレターとWeb記事の同時配信による定期ファン化促進」「ファンのターゲティング」などで、購読者獲得とその維持、継続をサポートする。
例えばツイッターでの記事配信を行った場合、フォロワーのクリック率が3%程度と言われるが、theLetterの平均開封率は65%にもなる。個人発のデジタルコンテンツ売上は増加傾向にあり、theLetter はスキルを持つ個人の独立を支援するツールを目指している。
続いて「Oh my teeth」を展開する株式会社Oh my teeth代表取締役西野 誠氏が登場。Oh my teethは、従来の歯科矯正が抱える「定期的な通院」「高いコスト」「続けられない」というハードルを、テクノロジーで解決するD2C(製造者と直接消費者が直取引)サービスだ。
西野氏によると、歯の矯正には平均90万円から120万円の費用がかかる上、2~4週間に一度通院しなくてはならない。Oh my teeth では、AIや3Dプリンタを活用しコストと時間を節約。通院は歯型スキャン時の1回のみ。その後は家に矯正キットが届き、自宅で矯正が進められる。スマホなどで矯正の進捗を記録し、LINEで手軽に専属ドクターに質問や相談が可能だ。費用は従来価格の約3分の1で収まると西野氏は話した。すでにユーザーは3,200名を突破し、UX(ユーザー体験)についてポジティブな意見をたくさんいただいていると西野氏は胸を張る。10月中には東京・表参道にOh my teeth旗艦店をオープンとするとのことだ。
6チームの最後は、サイクリング仲間のマッチングアプリ「Sporra」 を展開するSPORRA, Inc.のJordan Scott 氏が登場。ウィズ・コロナ時代においてフィットネスアプリの需要は増えている。また、世界中で自転車愛好家が増えており、日本でもその数は1,400万人と推計される。
同社メンバーは全員がサイクリストであり、サイクリストの課題は自身でよく理解している。まず既存のSNSやルート紹介アプリなどでは、初級者、中級者はサイクリングを続けられないという。なぜなら、レベルの合った仲間同士でのコミュニケーションの場が少なく、またサイクリングに適したルートの最新情報を得る手段も限られているからだ。
Sporraはサイクリストに最適なコミュニティとルートプランを提供し、サポートするマッチングサービスだ。ユーザーは目的やレベルに合った仲間を見つけ、Sporraの提案するルートで健康的かつ安全なサイクリングを楽しみながら、フィットネスの目標を達成することができるという。
以上6社のピッチが終了、審査の結果「Oh my teeth」がベストチームアワード、およびオーディエンスアワードをダブル受賞した。
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ダブル受賞したOh my teeth西野氏に(oVice上で)話を聞くと、「旧態依然とした歯科業界の仕組みを変えていきたいという思いのもと、多様なメンバーが集まってくれて、いいチームができたと思います」とチームの仲間に感謝のべた。さらに、業界からの抵抗を感じることもあるが、業界内の危機感を持った人たちも仲間になってくれているので、課題をひとつひとつクリアしてがんばっていきたいと話してくれた。
今回のデモデイでは、ウィズ・コロナ時代を意識しつつ、従前から課題だったエンドユーザーのペイン(お金を払っても解決したい悩み)に向けたプロダクトが提案されていた。審査員からは「6チームともユーザー目線を忘れずに改善を続ければ成功するのではないか」と励ましのコメントがあった。