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ビットコイン法定通貨化など 待ったなしの課題も俎上に〜BGIN Block #3 meetingレポート

BGIN Block#3が開催された(BGINの告知ページより)

BGIN Block#3が開催された(BGINの告知ページより)

 ブロックチェーン・ガバナンス推進のプラットフォームとして設立されたBGIN(Blockchain Governance Initiative Network)の総会(名称は第1回なら「Block #1」と記載される)は、年3回開催される。2020年11月に第1回、2021年3月に第2回が開催されており、29日から3日間の日程で行われた今回は、その3回目の総会(Block #3)となる。本来は、対面形式で行われることになっているが、新型コロナウイルス感染症のため、ここまではすべてオンライン開催だ。

 各方面の利害関係者が参加し、ブロックチェーンの諸問題に対処するBGIN。これまでは、意思決定の方法や知財管理についての暫定的な合意や必要な議論を迅速に進めるための仕組みづくりを進めてきた。さらに、規制当局、エンジニアなど異なる分野のステークホルダー間で、分散型金融システムにおける重要課題に関する情報の共有を行いつつ、議論やドキュメント策定作業も進めてきている。すでに、一部はドラフトペーパーを公表する段階に至っており、それらに対する意見募集も行なわれている。

 今回の第3回総会でも、さまざまな報告や議論、作業がおこなわれた。なかには、ビットコイン法定通貨化を決めたばかりのエルサルバドルから、同国の金融関係者を迎えてのパネルディスカッションなど、世界が注目する現在進行中の案件などもあり、非常に興味深い3日間となった。主な議題とディスカッションの内容を以下にまとめた。

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BGINの主な参加者とその役割
BGINの主な参画者とその役割(画像クリックで拡大)

 初日の冒頭におこなわれたオープニングのプレナリーセッション(全体会合)では、BGINの共同議長の松尾真一郎ジョージタウン大学研究教授と、プログラムの共同議長を務めるレーナ・アガワル(Reena Aggarwal)ジョージタウン大学教授から、主に新しい参加者に向けて、BGINの概要の説明があった。

 続いての招待講演では、規制当局、エンジニア、ビジネスの分野から登壇者があり、それぞれの取組を報告した。

 ビジネスサイドからの話題としては、JPモルガンのOnyxビジネス開発責任者であるサラ・オルセン氏が、JPMコインやQuorumを含む、ブロックチェーンの新プロジェクトとして昨年10月に立ち上げた「Onyx」についてその概要や進捗を報告。さらに、エンジニアサイドからは、Protoblock社のCEO であるYehuda Jay Berg氏が自身も関与するDEXの一種であるDexChainと、開発中の分散型オーダーブックに関するプレゼンテーションを行った。

 そして、規制当局からはアンチ・マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策(以下、AML/CFT)の国際組織であるFATF(Financial Action Task Force 金融活動作業部会)のジョナサン・フィッシュマン氏(Jonathan Fishman, Co-chair of FATF VACG / 米財務省)が登壇した。 

 AML/CFTは、ブロックチェーン・ガバナンスにおける重要課題であり、2019年には暗号資産サービス業者(Virtual Asset Service Provider 以下、VASP)にもトラベルルール(※)が課せられることになった。この勧告がどの程度遵守されているかの調査結果が、本総会直前の6月25日に公表されているが、必要な規制がまだ整備されていない国も複数存在したため、早期遵守の必要性が求められた。

※送付人の情報及び正確な受取人情報の取得及び保持を求める規制

 このトラベルルールの適用範囲を更に拡大することが検討されており、総会ではその改訂のプロセスが話された。VASP以外にも、広く暗号資産市場の参加者が対象になる可能性があるこの改訂案に関しては、危惧される点もあり、改訂の議論には、多様なステークホルダーの参加が必要なケースだ。

 関係者の話によるとBGINは、4月に行われたFTAFのトラベルルールに関するクローズドな意見聴取の場であるVACG(Virtual Asset Contact Group)の会合に招待されており、そこでBGINにおけるマルチステークホルダーによる議論の結果を提起している。今回のFATFからの登壇は、その返答として相互のコミュニケーションを図るために実現した。このようにFATFは、BGINとの意見交換を重視しており、この日も講演に続いてオープンディスカッションが設定され、フィッシュマン氏への質問や議論が相次ぐなど、熱を帯びた意見交換の場となった。

 その中で、ビットコインが身代金として使われることの多いランサムウエア犯罪についてのやり取りがあった。FATFのみならず、国際的な犯罪の撲滅を目指す当局側としては、身代金などにビットコインが利用されることについて、何らかの対策を行う必要がある。だが、規制当局だけではプロのエンジニア集団が関与しているこうした犯罪に対抗することができない。

 各方面のスペシャリストが集まるBGINでも、身代金にビットコインが使われた場合の対応方法などについて今後は当局側と一緒に議論をすること、その対処方法についてのドキュメントづくりを始めることなどが合意された。

 翌30日におこなわれた2日目のセッションは、BGIN自身のガバナンスのあり方を議論するInternal Governance Working Group(IGWG)と、ブロックチェーンにおけるアイデンティティ、プライバシと鍵管理を議論するIdentity, Privacy and Key Management WG(IPKWG)の2つのワーキンググループで、実質的なドキュメント作成の作業が行われた。

 BGINでのドキュメント作成作業は、GitHubレポジトリやGoogleDocsを用いて行われている。また、文書作成上の議論も隔週のオンライン会議で行われているため、誰でも、いつでも参加できることが特徴である。

 世界中で同時並行的に新しい活用方法が見いだされ、それも既存の社会制度や経済に大きな影響を及ぼすことになる事例を多く抱えるブロックチェーンは、常に新分野と向き合い、情報を共有し、課題を抽出、解決に向けての議論・合意をする必要がある。そのためこのようにオープンな場を設け随時、課題ごとに作業部会の設置することが求められる。

 IGWGの議論は、共同議長である慶応大学の鈴木茂哉特任教授によって進められ、この日は主にBGINの運営やルールづくりに関する議論が多く行われた。

 また、IPKWGではすでに作業がかなり進行している。ドキュメントの最終出版が近づいているCentralized Custody(集権型カストディ)、Decentralized Custody(分散型カストディ)の鍵管理のドキュメントと、分散型金融におけるプライバシに関する文書の内容に関する議論が行われた。それに加え、将来のプロジェクト候補として、初日に話題となった「ランサムウエア対応」や、最近話題になることの多い「NFT(Non-Fungible Token)」。さらに、パスポートや免許、ワクチン接種証明などをデジタル化する際に必要となるデジタルアイデンティティーの有力な管理、利用方法として、今後その普及が期待される「自己主権型/分散型アイデンティティ(SSI=Self-Sovereign Identity/DID=Decentralized Identity)」について、今後新たなワーキンググループを設けることなどが提案、検討された。

エルサルバドル中米経済統合銀行のルイス・ロドリゲス長官

 最終日には ”Institutionalization of cryptocurrency: Is it really ready?(暗号通貨の制度化 準備できてますか?)” と題したセッションが行われた。これはおそらく先ごろビットコインを法定通貨化することを決めた中米のエルサルバドルを念頭においたテーマ設定で、同国からはエルサルバドル中米経済統合銀行のルイス・ロドリゲス長官(Luis Rodriguez, Director del Banco Centroamericano de Integración Económica para El Salvador)が参加した。

 初めての試みゆえ当然のごとく、ビットコインの法定通貨化にはさまざまな意見がある。技術者や暗号資産ビジネス関係者、当局経験者などがパネリストとして参加したこのセッションでも賛否両論があり、またパネル進行中にも総会参加者からチャットでさまざまな質問が投げかけられた。

 人口650万人ほどのエルサルバドルでは、国民の70%が銀行口座を保有しておらず、また他国への出稼ぎ労働者からの送金が国民生活を支えている。同国の取り組みに対する賛成派の意見は、手軽に国際送金ができるビットコインは、同国民に大きなメリットをもたらす。さらに、銀行と取引関係を持たない個人や小規模企業に対して金融サービスを提供することが可能となるため、金融包摂を進める上でもビットコインの法定通貨化は役に立つといったものだ。

 この日のパネルディスカッションに参加していたミッシェル・パターソン氏は、ビットコインが法定通貨化以前に、エルサルバドルのコミュニティでビットコインの社会実装の試みを行ってきたBitcoin Beach El Salvadorのデレクターだ。同氏によると、エルサルバドルへの国際送金手数料は20%になることもあり、また多くの規制から銀行口座開設の障壁が高く、こうしたことが金融システムへの不信感と経済循環の障壁となっているという。

 ところが、そこに決済手段としてビットコインを持ち込むことで、さまざまな変化が起きることがわかった。これまでは、銀行口座を持たない貧困層は、お金はすべて手元にあるがゆえに目の前にあるお金をすべて消費しまいがちだった。しかし、時間が経てば価値が上がる通貨を持つことで「貯蓄する」という習慣が生まれた。

ビットコインの法定通貨化などについて議論する参加者

「これにより、人生観や教育に対する考え方、将来の生活を向上させるために今日行う犠牲的なことなど、すべてが変わりました。経済的な変化だけではなく、考え方全体が変わったことには本当に驚かされました。」(ミッシェル・パターソン氏)

 一方で慎重派は、極端な価格変動があるビットコインを一般国民が支払手段として使用できるのか?といった基本的な問題にはじまり、当局による必要十分なルールや規制が完成していない中では、AML/CFTの観点からも懸念される点が多いことなどを指摘した。この総会の前後には日本政府やIMF、ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(ECLAC)などからも同国の決定には懸念の声が上がっており、現時点では四面楚歌の状況だ。

 しかしながら、今は世界に欠くべからざるものとなったインターネットも、その草創期には、インフラとしての利用には慎重な意見が大半であった。こうした経験を踏まえてみるに、国家規模のアーリーアダプターとしてエルサルバドル政府がリスクを取り、早期に新技術へ対応していくことの利点を指摘する意見もあった。

 ルイス・ロドリゲス氏は中米経済統合銀行としても、AML等の規制対応やガバナンス上の課題を克服するために、政府に対して引き続きビットコイン法定通貨化の支援を行っていく旨の表明があった。 

 この日のディスカッションではその他にも、暗号資産セクターに機関投資家参入するにあたって、必要となるカストディや保険などに関する課題の共有と、技術的な合意に向けての整理が行われた。さらにはビットコインの本源的価値、取引所の価格発見機能などについてなどの幅広いテーマについての議論がおこなわれ、幕を閉じた。

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 第4回総会(Block#4)は、今秋にアフリカで開催が予定されている。Block #3のエルサルバドルの議論に引き続き、金融包摂がテーマのひとつになる見込みだが、数ヶ月先の事ゆえ、またその時点で思いもよらない重要課題に直面している可能性もある。なににしろ、待ったなしの技術進化と伴走する上で、スピード感を損ねないためにはこうしたマルチステークホルダーによるプラットフォームが今後も重要な役割を果たすことになるだろう。

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