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「未来の燃料」グリーン水素、湾岸諸国も着目

サウジアラビアの首都リヤド近郊ウヤイナにある太陽光発電研究所(2018年3月29日撮影)。(c)FAYEZ NURELDINE : AFP

サウジアラビアの首都リヤド近郊ウヤイナにある太陽光発電研究所(2018年3月29日撮影)。(c)FAYEZ NURELDINE : AFP

【AFP=時事】数十年にわたり化石燃料に依存してきたペルシャ湾岸諸国。経済構造の転換と、気候変動に伴う影響の緩和を一気に図ろうとする中、着目しているのが「グリーン水素」だ。

 グリーン水素は、再生可能エネルギーを使って水を電気分解することによって生成される。温室効果ガスを排出せず、潜在的な用途も幅広い。高い利益が見込めると同時に環境への負荷も低減できるため、各種の課題の解決につながると考えられている。

 しかし、現在、グリーン水素が水素全体の生産量占める割合は1%にも満たず、商業レベルで普及するまでのハードルは高い。また、再生可能エネルギー源を拡充させる必要があり、それには何年もかかる可能性がある。

 それでも湾岸諸国は、石油収入が減少する中、エネルギー市場のキープレーヤーであり続けるための鍵はグリーン水素にあり、とみている。

 英王立国際問題研究所(チャタムハウス、Chatham House)のカリム・エルジェンディ(Karim Elgendy)氏は、「湾岸諸国は世界の水素市場をリードしたいと考えている」と指摘する。「化石燃料需要が減少した後も影響力を維持するためにはグリーン水素が要になると、湾岸諸国はみている」

 現状では、水素の大半は、環境を汚染する化石燃料から抽出されている。それに対し、グリーン水素は、風力、太陽光、水力といった再生可能エネルギーを使って水から抽出される。

 化石燃料を燃やすと温室効果ガスが排出されるが、水素を燃やしても水しか発生しない。そのため水素は、陸上交通、海運、鉄鋼といった、温室ガス排出量が多い産業部門での利用が期待されている。

■水素輸出をリード

 サウジアラビアは、5000億ドル(約73兆7000億円)を投じて紅海に未来型巨大都市「NEOM」を建設中だ。そこには、世界最大のグリーン水素生産施設が設置されることになっている。

 当局者によると、総工費84億ドル(約1兆2400億円)の水素生産施設では、太陽光と風力を使い、1日当たり最大600トンのグリーン水素が製造される。

 アラブ首長国連邦(UAE)は7月、新たなエネルギー戦略を決定。2031年までに水素生産量で世界10位以内を目指す方針を設定した。UAEでは今年、国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)が開催される。

 一方、湾岸地域におけるグリーン水素生産でトップをうかがうのは、化石燃料生産ではサウジ、UAEの後塵(こうじん)を拝しているオマーンだ。

 国際エネルギー機関(IEA)は6月に公表した報告書で、2030年までにオマーンは中東で1位、世界でも6位の水素輸出国になるとの見通しを示した。

 IEAによると、オマーンは水素の年間生産量を2030年までに少なくとも100万トン、2050年までには850万トンと、「現在の欧州における全需要量を上回る水準」に拡大することを目指している。

 コンサルティング会社デロイト(Deloitte)によると、中東諸国、特に湾岸諸国は目先、グリーン水素市場でけん引役となり、2030年までに生産量の半分程度を輸出に回す見込みだ。

■希望か大風呂敷か

 これまでのところグリーン水素部門への投資によって、石油・ガス部門の成長が抑制されている事実はない。実際、UAEとサウジは炭化水素部門の拡大を計画している。

 専門家は、化石燃料ベースの水素とコスト面で競争できるグリーン水素を湾岸諸国が製造できるようになるまでには、まだしばらくかかるだろうと予測する。

 シンガポール国立大学(National University of Singapore)中東研究所のアイシャ・サリヒ(Aisha al-Sarihi)研究員は「湾岸諸国は、炭化水素製品をできる限り長く販売することに注力するだろう」と語る。

 ただ、グリーン水素が商品として販売できるようになるまでには何年もの試行錯誤が必要だろうとの見方を示しつつも、技術が確立され、コストも下がれば「未来の新しい燃料となり得る」とも話した。 厳しい見方もある。UAEのアブドラ・ヌアイミ(Abdullah al-Nuaimi)前気候変動・環境相は「水素を輸送するには現行のインフラでは不十分で、大規模な投資が必要となる」と指摘する。「水素に付いて回るこうした課題を克服するには時間がかかりすぎる」 と、AFPに語った。【翻訳編集】 AFPBB News|使用条件