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深セン流オープンイノベーションで「aiwa」のバトンを引き継ぐ

JENESIS深圳での藤岡淳一CEO。後ろにはこれまでJENESISが手掛けてきた様々なデジタル製品が並んでいる

JENESIS深圳での藤岡淳一CEO。後ろにはこれまでJENESISが手掛けてきたデジタル製品が並んでいる

 JENESIS 株式会社(東京都千代田区)は、アイワ株式会社(東京都北区)から「aiwa」ブランドのデジタル分野における商標使用権を取得し、「aiwa」ブランドのデジタル機器製造および販売開始を発表した。8月よりスマートフォン、スマートウォッチ各1機種とタブレット端末4機種を市場に投入する予定だ。

 JENESISは2011年に中国・香港で創業し、深センを開発/生産拠点としてEMS(電子製品の受託製造)を主な事業として成長してきた。近年では小型翻訳機「POCKETALK(ポケトーク)」の受託製造で知られる。

 同社創業者であり代表取締役社長/CEOの藤岡淳一氏は、筆者(高須)の旧知の友人だ。我々の世代にとって思い入れのあるaiwaブランド製品の製造・発売についてその意気込みを聞いてみた。

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インタビューに答える藤岡淳一氏
インタビューに答える藤岡淳一氏

―今回、aiwaブランド取得を発表してからのフィードバックはいかがですか?

「今回はモノとコトで言えば、コトの発表をさせていただいたのですけど、8月に製品発表会をやるので、モノはそちらで発表します。コトに関してもモノに関しても、私たちがカラーをつけるというより“aiwaのデジタル”というものが、どういうふうに世の中に歩き始めるのかなっていうのを見守ろうと思っていたんですね。今回、SNSで非常に盛り上がってありがたいのですけど、その中には、いい意見ばかりではなく『そんなのはaiwaじゃない』みたいな意見もいただくというのは面白いなと思って。私たちはかつてのaiwaをリスペクトして、失礼のないものを作っていかなきゃいけないっていう緊張感とプレッシャーはあるんですが、ファンの人からすると、やっぱり許せない部分っていうのはあるのでしょうね」

―中国における日本ブランドの取得、ハイアール(パナソニックから旧三洋電機の白物家電事業を取得「AQUA」ブランドで展開)や、レノボ(現在、NECブランドのパソコンはLenovo NEC Holdings B.V.社の傘下の企業が製造)と同じ話に捉えられるんですかね。

「中国企業からすると、ノドから手が出るほど欲しい日本の由緒あるブランド。それは血のにじむ努力をして仕事をした先輩たちのおかげです。先輩たちの誇りや汗があって、それを無駄にしちゃいけない。我々や中国の会社はお金を出しても欲しくて、ブランドを手に入れるわけですけども、中国では比較的そういうことに対してあまり抵抗がない。“時間を買う”という意味もありますよね。ゼロからブランドを作るのは100年かかる。一方で日本の厳しい目線っていうんですかね、「aiwa」を好きだった人もそうじゃなかった人も。やっぱりそれに劣るものを作っちゃいけないなっていうことですね」

―多くのプロダクトをEMSとして手助けしてきた中、久しぶりの自社製品ですね。

「私たちは、例えばレノボとかシャオミと戦うわけです。海外モデルをローカライズして持ってくる人たち。それに対して、我々はプロダクトアウトではなくて、マーケットインのものが作れる会社だと思っていて、自分たちがこれを作りたいっていうより、こういうものを作ってほしいという人に合わせられるのが私たちの強みだと思っているんですね。昼間から大きいハンバーガーを食べる人たちが好む仕様ではなく、お昼におにぎりを食べる人たちが好む仕様っていうか。しかし、考えてみればこの10年間ですね。散々『俺はチャイナだ、自分は深センだ』って言っていたのに、今回は日の丸をまとってですね、いわゆる和の部分で海外勢と争うっていうのは自分でも何か恥ずかしいぐらい」

aiwaブランドはBtoBと好相性

―ライバルがレノボとかシャオミなどって素晴らしいワードですね。

「もちろんライバルっていうにはまだまだですけども、でもやっぱりそのゾーンにはなるんですよね。ミドルレンジからエントリーのところ。そこは、その昔のaiwaのポジショニングと非常に同期していると思います。今、iPhoneも10何万円する時代ですから、(子どもは)そういったものはなかなか買ってもらえない。お金を出してくれる購買層、つまり親世代に刺さるのが、OPPOなのかaiwaなのか。あと、私たちの大きなターゲットであるのがBtoB。例えば勤怠管理で使えますとか、リモートワークで使えますとか、情報システム部門の部長と、総務部長が権限を握っているんで、意思決定をする中高年たちに刺さるっていうことでaiwaを選択したというのもあるんですね」

―それ面白いですね。中国の家電製品は、多分コストパフォーマンスにおいて世界一だし、信頼性も悪いわけじゃないんだけど、会社としての信頼性が日本のBtoB需要と相性が悪いですよね。彼らは基本的に約束を後から変えていいと思っているし、それをやると日本の法人向けはできないんですよね。

「そうですね。あとはやっぱりBtoBでは長期的な供給を求められたりするので、海外モデルだと日本法人の都合だけで延長とかできないってなりますよね。そういう意味では私たちは部品一個から自分たちで買っていますから、それがコントロールしやすいっていうのは、海外勢との差別化になるかなと思っています」

aiwaブランドのバトンを引き継ぐ

発売予定 aiwaブランド スマートウォッチ
aiwaブランド スマートウォッチ(発売予定)

―今回、タブレットとスマートウォッチが(報道発表の)ラインナップに並んだのが面白いなと思って、しかもどれも、既存の製品に比べるとだいぶ安くなりそうじゃないですか。

「為替や半導体などの原価の問題があるんで、ちょっと悩んでいますけど、aiwaらしさの部分は、しっかりと継承していかないとと思っています。もちろんミドルレンジにチャレンジはしますけども、今、日本の給料もなかなか上がらない中で、学生がお小遣いを貯めて買えるレベルっていう、我々の世代がaiwaに感じるものって多分そのときのラジカセとかCDプレーヤー。やっぱり憧れだったじゃないですか」

―確かに。僕が中学高校の頃に買ったポータブルカセットレコーダーやCDはaiwaでした。

「今回深センの部品メーカーや、デザインハウスにもいろいろ協力してもらったんですけど、それらの創業メンバーたちはみんなaiwaを知っていて、今回の開発にもいろんな費用を肩代わりしてくれるなど、すごく協力してもらいました。10年間、深センのサプライチェーンで生き続けて、今回こうやって満を持して勝負するっていうときに協力してくれる人がいるっていうのは、本当にありがたいことです。今ご存知の通り、この電子業界は景気が悪いので、本当に期待をしてもらっているんで頑張らないと」

―ちゃんと自分で取引先を選び、ちゃんとオープンイノベーションをやった製造業ブランドはぜひ成功してほしいですね。そこがうまくいくと、日本の他の家電メーカーにも影響しそうな気がしますね。あと、日本の市場にあまりないカテゴリの製品、タブレットやスマートウォッチには期待しています。

発売予定 aiwaブランドタブレット
aiwaブランドタブレット(発売予定)

「タブレットも何種類か出す予定ですけど、フラッグシップモデルなんかはゴリラガラス(Gorilla Glass)を使ったり、法人が好みそうな防水・防塵にしてみたりしています。あと、単なる物売りだけではなく、我々は今まで何百という製品を開発させてもらった経験を活かしたい。タブレット、スマートフォン、スマートウォッチで何ができるのか。例えば今後は高齢者向けのUIを開発して、ソフトウェアで実現していきたいと思っています」

―日本人としても家電好きとしても興味あるポイントです。日本の歴史あるブランドって、ハードウェアは作るんだけど、ソフトウェアでは全然オープンイノベーションができなくて、自社製のろくでもないソフトが入って駄目、みたいなケースをいくつも見てきました

「aiwaが一時期倒れちゃったのも、やっぱり彼らはデジタルでいけなかったっていうことなんですよね。だからその無念をね、うん。ハチマキを巻いてね。aiwaのデジタルは私たちがバトンを引き継いで、少年の心を裏切らない安くても悪くない製品を出す。そういうaiwaのブランドとして復活させたいですね」

―いいですね。8月の製品発表とその後の発売を楽しみにしています。

製造業のオープンイノベーションを深センから

 かつては家電でも隆盛を誇った日本の製造業は、デジタルの時代になってから振るわない。もちろん日本全体の生活水準が上がったことによるコスト増や、少子高齢化による労働力不足もある。しかし、それ以上にデジタル時代に必要なプラットフォームの構築や、オープンイノベーションをうまく構築できなかったことが多い。

 日本製のデジタル家電というと、使いにくい独自ソフトや独自フォーマット、アップデートされないソフトウェア環境といったソフトウェアの弱さで、米アップルのiPhoneやテスラなどに水を開けられている姿が目立つ。ハードウェアについても、ムーアの法則により毎年・半年ごとに出てくる新しいCPUやセンサーなどへの対応が遅れ、新CPUやセンサーと同時にシャオミのような中国の製造業が新製品を投入してくるのに遅れを取っている。

 同じ「Made in China」でも、テスラやシャオミの製品が多くの中国企業とオープンな連携を築いて、バッテリやセンサーなど各分野を担うパートナー同士のイノベーションの足し算として新製品が投入されるのに対し、日本製品は国内での設計を現地で製造するか、または独自設計を放棄したODMが多い。

 藤岡氏のJENESISはそのなかで一貫して「深センでの設計・オープンイノベーション」を行ってきた。

「POCKETALK(ポケトーク)」は元々オランダのTravisが開発したもの。その後、販売権を持つソースネクストがソフトウェアの改良に協力し、深センのハードウェア業界を熟知したJENESISが製造を担当、ソラコムのeSIMによる通信を組み合わせ大ヒット商品となった。現在も継続的に機能を追加した新製投入している。

 こうした複数の会社によるオープンなビジネスモデルの構築や、開発速度を経験している企業のもとで「aiwa」ブランドの新製品が登場する。このことは製造業にとって今後の大きなヒントになるかもしれない。

Written by
オープンソースハードウェア、メイカームーブメントのアクティビスト。IoT開発ボードの製造販売企業(株)スイッチサイエンスにて事業開発を担当。 現在は中国深圳在住。ニコ技深圳コミュニティCo-Founderとして、ハードウェアスタートアップの支援やスタートアップエコシステムの研究を行っている。早稲田大学ビジネススクール招聘研究員、ガレージスミダ研究所主席研究員。著書に第37回大平正芳記念賞特別賞を受賞したプロトタイプシティ』(KADOKAWA)、『メイカーズのエコシステム』(インプレスR&D)訳書に『ハードウェアハッカー』(技術評論社)など。