マサチューセッツ工科大学のメディアラボの元所長で、株式会社デジタルガレージの共同創業者でもある伊藤穰一が、さまざまなゲストを招きweb3について考える、ポッドキャスト「JOI ITO’S PODCAST ―変革への道― 」。今回は、ハーバード大学法学部教授のローレンス・レッシグ氏が登場。スマートコントラクトについて対談を行った。
伊藤とレッシグ氏は、クリエイティブ・コモンズの活動などで、Web1.0やWeb2.0においても、インターネット上の規制などについての取り組みを進めてきた。今回の対談では、web3での規制ともいえる、スマートコントラクトについて話が及んだ。
伊藤穰一(以下、伊藤):クリエイティブ コモンズやweb3、シェアリングエコノミーを融合させた世界は、どんな展開を見せると思いますか?
ローレンス・レッシグ(以下、レッシグ):2004年、シェアリングエコノミーについて考察していたころ、クリエイターが自分の作品の商用利用を提供できる場を作ろうと奔走していましたが、実現しませんでした。私たちはクリエイターに対して、自分の作品をCCライセンスで提供するよう説得していました。すると彼らは当然のように「じゃあここから得られる可能性のある収益はいくらなんだ?」と聞いてきたのです。私たちは作品をライセンスし、クリックすればその作品の商用部分をライセンスできるようなシステムを作りました。しかし、煩雑な手続きが必要で信頼性もありませんでした。NFTの場合は、スマートコントラクトによって、転売されるたびに作者やクリエーターは永続的な収益源を得ることができ、画像を広く普及させることができるようになりました。そして多くの人が、その画像を素晴らしいと思うことで、NFTの需要が高まり勝者となれるのです。20年前に私たちが構築したり話したりしたものよりはるかに優れたシェアリングエコノミーの技術的実装だと思います。
伊藤:スマートコントラクトは、契約のためのプログラミング言語であるということですよね。人のお金を盗むようなスキームを作ることもできれば、そうじゃないコントラクトを作る事もできる。そして、それが欠けているアイデアだと思うのです。問題は私たちが望むようなものを作ることができる人たちが、プログラミング言語を学んでいないことだと思うんです。コードは非社交的だという風潮がありますからね。
レッシグ:たった今、あなたは素晴らしいことを言いましたね。コントラクトは物を盗むために書くこともできるが、社会善のために書くこともできるということですね。それがスマートコントラクトの面白いところです。どちらの目的でもコントラクトを作成できます。法律上の契約や現実の世界での契約はそうはいきません。人を殺す契約はできない。それは契約とは言えないんです。しかしコードの世界では、強制力のある契約になりうるのです。殺人ではなくそれに相当するような、大量のお金を盗むということです。これがスマートコントラクトと契約の重要な違いで、法律はスマートコントラクトよりも現実の契約をより積極的に取り締まるということです。それでもなお、スマートコントラクトは、契約という文脈における信頼性のコストを下げるという大きな可能性を持っています。実際に誰かを訴えるのは、あまりにもコストがかかりすぎる。でもスマートコントラクトの場合は、機械にはそれを実行するためのインフラがあるので、機械はそれを実行するだけ。協定の信頼性を根本的に向上させることができます。私たちはそれを祝福し、できる限り広く普及させるべきだと思います。
番組では、この対談についてキャスターの奥井奈南さんが解説。実例などを交えながら、スマートコントラクトとは何か?を紐解いている。詳しくはビデオキャストとポッドキャストでお楽しみいただきたい。
【JOI ITO 変革への道 – Opinion Box】
番組では、リスナーからのお便りを募集しています。番組に対する意見だけではなく、伊藤穰一への質問なども受け付けます。特に番組に貢献したリスナーには番組オリジナルのNFT会員証をプレゼントします。
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【編集ノート】
伊藤穰一からのメッセージや、スタッフによる制作レポート、そして番組に登場した難解な単語などはこちら。
https://joi.ito.com/jp/archives/2022/12/19/005851.html
■「JOI ITO’S PODCAST ―変革への道―」
#59 スマートコントラクトについてハーバード大教授ローレンス・レッシグと考える