3連休に続けてお盆休み中の方も多いことと思う。暑いながらも一息つける夏休みのコンテンツとして、掘り出しモノのインタビューをお届けしたい。
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全世界で3億以上のユーザーが利用するツイッター(Twitter)は2006年の夏にサービスを開始した。米国トランプ大統領も頻繁に利用し、今や世界情勢を左右するような「つぶやき」が流通するほどの社会インフラとなったTwitter。その初期の様子を伝える創業者たちの2008年当時のインタビューを発掘した。
インタビューの背景を少し解説したい。Twitterの日本語によるサービスは2008年4月から。このインタビューは、日本のユーザーにTwitterの文化や創業者の人となりを知ってもらうために、デジタルガレージがTwitterの日本展開に向けてTwitter社と資本業務提携した直後の 2008年2月に行ったものだ。
日本には新しいサービスをまっさきに使うアーリーアダプターが世界的に見て多かったため、当時のTwitterユーザーの2割から3割は日本のユーザーだった。TwitterがDGと資本業務提携し、他の言語に先駆けて日本語版の開発を進めたのにはこうした事情がある。
そのころのTwitter社は、サンフランシスコのSouth Park地区にあった小さなオフィスに拠点を構えていた。20人弱の小世帯で、3人の共同創業者も机を並べて働いていた。当時のCEOはJack Dorsey氏でエンジニリングを担当。Evan Williams氏はオペレーション、Biz Stone氏はクリエイティブを担当していた。
当時、彼らはTwitterをどのようなものだと捉えていたのか。Twitterがまだ、その可能性を存分に発揮していなかった当時。3人の答えには、その後の隆盛を知る現在の読者にとって興味深く、示唆に富んだ発言が随所に見られる。そういった意味ではまさに“掘り出しモノ”の貴重なインタビューだ。
――普段どうやってTwitterを使っているの
Jack Dorsey氏(以下、Jack) SMSで
――Twitterの開発はいつ着手したんですか
Jack 2006年3月に、僕と契約エンジニアだったFlorian Görsdorfが開発を始めた。仲間同士でリアルタイムにコミュニケーションをするための便利なツールを作りたいと思ったんだ。
――Twitterという名前にした経緯は
Jack 最初は、SMSを受信したときなんかに携帯がぶるぶる震えるから「Twitch」にしようとした。でもあんまりしっくりしなかったので、別の名前にすることにした。でも「Tw」で始まる名前にしようと思っていたので、辞書を引いてみた。それで「Twitter」に行き当たったというわけさ。「ぺちゃくちゃしゃべる」とか「さえずる」という意味も、僕らの考えているサービスに合っていたしね。
――開発プラットフォームにRuby on Railsを採用した理由は
Jack FlorianがRuby on Railsのコアメンバーだったから。Ruby on Railsを使えば短期間に開発ができるって主張するもんだから。実際、プロトタイプの開発にはたった2人で2,3週間しかかからなかった。Florianがいなかったらきっと、僕が慣れ親しんでいたPythonとC言語で作っただろうね。
――FlorianはいまもTwitterに関わっている
Jack いや。彼は今、ベルリンで大工をしているよ。「プログラマ以外の仕事をしたい」と言い残してね。Ruby on Rails以外にも、彼の存在は現在のTwitterに影響を与えている。彼はベルリンで仕事をしていることが多かったので、ぼくらのシステムをリモートでアップデートするためにインスタントメッセンジャーのボットを作ったりした。それが便利そうだったので、Twitterをインスタントメッセンジャーに対応させることにしたんだ。
――Twitterのようなサービスの構想はいつから暖めていたのかな
Jack 2001年くらいから(※)。当時僕は、配車システムの開発に携わっていた。救急車とかバイク便を問い合わせに応じて効率よく送るやつ。そのとき「リアルタイムでメッセージをルーティングするシステム」という構想を思いついた。例えば救急車のシステム場合、「いま患者を乗せて病院に向かっている」という状況をリアルタイムに把握する必要がある。同じような発想でパソコンから離れた場所にいる人に、現在の状況に関するメッセージを送り届けられるようなものを作りたくなった。いまのTwitterも当時とコンセプトが変わっていない。
――実際開発に着手するまでに5年もかかっているのはなぜ
Jack そうしたシステムを実現するための環境が整うのにそれだけ時間がかかったからさ。2001年当時は米国でもまだSMSがそれほど使われていなかった。料金がとても高かったことだけでなく、異なるキャリアの携帯電話間でメッセージのやり取りができなかったことも一因だった。技術的にはHTTPとSMTPに加えて、SMPPやXMPPが普及し始めたことが開発に踏み切るきっかけになった。異なるトランスポートの間でメッセージをリアルタイムにやりとりするための土壌ができた。
――2006年3月にプロトタイプができてから、2006年8月にサービスを公開するまでの間は何があったの
Jack サービスの公開が8月になった一番の理由は、SMSのショートコードを割り当ててもらうのに時間がかかったことにある。もちろん、その間もプロトタイプを基に新たな機能の追加なんかをしていたけどね。
――140文字にこだわった理由は
Jack SMSがメッセージの長さの上限を通常140文字に規定しているからさ。インスタントメッセンジャーでステータスを表示する行も短い。ここに収まる文字の長さを考えても140文字はちょうどよかった。それにあまり多く文字をかけると何を書こうか躊躇してしまうというユーザー心理も考慮した。インスタントメッセンジャーともメールとも違う新しいコミュニケーション方法を提案するには、メッセージを短くすることはとても大切と考えた。
――2006年当時と今とで、変わっていることがあるとすれば何か
Jack これほど多くのサードパーティーがさまざまなアプリケーションを開発するようなプラットフォームになるとは思わなかった。日本のエンジニアが開発した、仮想的な猫についてユーザー同士がコミュニケーションをする「necoったー」みたいなものなんて想像すらしていなかったよ。もっとも僕自身も、Twitterのようにリアルタイムにコミュニケーションができるプラットフォーム上でアプリケーションを開発するのはとても楽しい。自分がいま作ったコードを実行すると、自分の手元にある携帯電話にすぐにメッセージが届いたりするんだから、たまらないよ。
※2000年7月に思いついたとの本人発言もあるがここではインタビュー時の回答のままとした。
――普段どうやってTwitterを使っているの
Biz Stone氏(以下、Biz)SMSとWebサイトが半々
――Twitterでの役割は
Biz 共同創業者でCreative Director。Twitterのルックアンドフィールなど、ユーザーインタフェースの設計を担当している。広報や事業開発の仕事もやっているよ。
――どういう経緯でTwitterに参加したんですか
Biz もともとはアーティストで、本の制作なんかをフリーで手がけていた。SNSを提供していたXanga社を経て、Bloggerを買収した後のGoogle社に入りEvanたちと仕事を始めたんだ。当時はブログについての本を書いたりしていた。そしてEvanの後を追う形で2005年にOdeo社に移り、Twitterの開発にかかわった。
――TwitterのアイデアをJackから聞いたときのことを覚えている
Biz もちろん。2006年当時、僕自身はSMSをそんなに使っていなかったけれど、Jackの構想を聞いてすぐに「これは面白い」と思った。実際、電車に乗っているときなんか退屈で何か時間をつぶせる面白いサービスがないかな、と思っていたところだったしね。
――すると、Odeo社でのTwitterプロジェクトは順調に軌道に乗った
Biz いや、そんなに簡単ではなかったよ。なにしろOdeo社はポッドキャスティングのサービスを手がける会社だったからね。「そんなのわが社でやる必要ないのでは」なんていう意見があったのは確かだ。
――JackとFlorianが開発したプロトタイプからユーザーインタフェースも手がけた
Biz そう。たとえば「What are you doing?」なんていう問いかけは、初期のユーザーインタフェースにはなかった。でもなんだか四角い箱があるだけでは寂しいので、入力を促すように何かを書いておこうということになったんだ。現在の状況について投稿してもらいたかったから、おのずと今の言葉に決まった。
――現在のユーザーインタフェースはすごく単純で、決してお洒落なものではないと思うんですが。他のサービスにはもっと洗練されたユーザーインタフェースを持つものがあるけれど。
Biz 今のテイストがいいんだ。ぼくらはTwitterをシンプルなサービスにしておきたい。具体的に言うと、画面を構成する要素は、6個から多くても8個程度に抑えるべきだと考えている。いくら洗練されて見えるからといって、Ajaxなんかを駆使して機能を複雑にするのは本末転倒だと思う。
――クリエイティブ担当として次の課題は何
Biz Twitterは革命的なコミュニケーションで、ただのWebサービスではないことをどうやってユーザーに知ってもらうかだね。メールやIM(Instant Message)ではなく、もっと意識しない方法でゆるくコミュニケーションができる。SMS上でリアルタイムに同じことを知り、同じ方向に意識を向けるような新しいものが生まれようとしている。まだこれを実現したことはない。Twitterはトリッキーだけど、新しいタイプのコミュニケーションなんだ。
――普段どうやってTwitterを使っているの
Evan Williams氏(以下、Evan)SMSとWebサイト、ときどきTwitterrificを使うよ
――Twitterの開発提案をJackから受けたときの様子は
Evan Jackから話を聞いたときには、即座にすばらしいアイデアだと思った。でもOdeo社はポッドキャスティングを本業としていたので、社内でTwitterの開発について異論があったのも事実だ。プロトタイプの開発は社内でもオープンになっていたし、実際にできたものを使うとその便利さに気づく人たちもいたけれどね。
――そうした状況の中、CEOとしてはどう判断を下したの
Evan ともかく開発を続けてもらおうと考えた。そこで、社内のエンジニアリングリソースにあまり影響を与えないように、担当するエンジニアを、Jackを含めて2名に抑えた。
――Twitterがこれほど広がるサービスになるとは、その時点で予想した
Evan ある程度のユーザーがつくことは予想していたけれど、どれだけ広がるかは見当もつかなかった。ともかくTwitterが好きだからTwitterを開発したという感じだった。
――Bloggerを立ち上げたときの経験は、Twitterにはどう生きている
Evan まず最初に使ってくれるユーザーから、より多くのユーザーにどう広げるかが鍵を握るという点だ。新しいサービスが登場したとき初期のユーザーは、自分たちでサービスの面白さを見出してくれる。課題はそれ以外の潜在的なユーザーにいかにTwitterの本質を知ってもらい日常的に使ってもらうようになるかだ。
――そのキャズム(chasm=成功のために超えなければならない「溝」)を越えるための方策は
Evan Twitterを広く普及させるためのさまざまな条件が今まさに整いつつあると思っている。例えば、米国でもこれだけSMSが利用されるようになってきた。また、人々の注目を集めるセレブの中にもTwitterユーザーが増えている。こうしてTwitterを使うためのしきいが下がることによって、僕の妹のようにブログは書いたことがないけれどもTwitterは使うという例が増加しているはずだ。
――日本のようにSMSがほとんど使われていない地域もある
Evan それは認識している。カギを握るのは、SMSそのものというよりもモバイルでTwitterにアクセスできる環境だと思う。このためにWebサイトの整備にこれからも力を入れていくつもりだ。それから、良いユーザーエクスペリエンスを提供していく努力もますます大切になると思っている。登録はしたのはいいけれど、友だちが見つからないのであまり利用しなくなってしまう例がある。こうしたユーザーに、Twitterの楽しみ方をすぐに知ってもらえるような仕組みを考えたい。
――APIを公開するという方針はどのように決まったのか
Evan オープンにできるものはしていくというのが、Web業界では自然の流れだからだよ。APIを公開することに異論を差し挟む雰囲気はもはやない。
――そうした戦略を採りつつ、Twitterのサービスを安定的に運営するための方策は
Evan われわれのWebサイト経由であっても、APIを利用したサードパーティーのクライアントソフトウエア経由でも、Twitter上でユーザーがつぶやくすべてのメッセージは、われわれのサーバーを経由する。そこをどう活用するかだね。
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3人のその後と現在だが、JackはいったんTwitterを離れたあとSquareを創業し、その後Twitterに復帰して現在はCEOを務める。EvanはJackのあとCEOになりその後Twitterを離れ、Mediumを創業し今に至る。BizもTwitterを離れいくつかのスタートアップを創業したが、Jackに呼び寄せられる形で2017年にTwitterに復帰している。