クルマのEV(電気自動車)シフトが急速に進む中で、「EV向け電池」の開発競争は激化の一途をたどっている。現在EV向け電池の主流は「リチウムイオン電池」であるが、小型化、大容量化などさらにすぐれた性能の電池が必要である。全固体電池は、「電解液」と「セパレーター」(※)を固体の電解質にしたもので、「ポストリチウムイオン電池」の一番手として、各社は開発にしのぎを削っている。
(※)電池の正極と負極を分離するとともに、リチウムイオン電池では電解液の中をイオンが行き交う仕組みのため、イオンが通るぐらいの小さな通り道を確保している。
2018年2月28日~3月2日、東京ビッグサイトで開催された「第14回 スマートエネルギーWeek 2018」内の「二次電池展」では、各社のEV向け製品や技術などが展示されていた。その中でも、全固体電池に関する技術や製造機器などは多く見られたが、完成品としての全固体電池そのものの展示はあまり見つけられなかった。これほど注目されていても、まだ、研究開発途上で具体的な製品として発表されているものは少ないのだろうか。そう思って見て回るとFDK株式会社(以下FDK)のブースで足が止まった。
FDKは富士通グループで乾電池などの開発を主としているが、1年ほど前に、「高エネルギー密度を有する全固体リチウムイオン電池用正極材料を開発」(2017年2月27日)との報道発表を行っている。
FDKは富士通研究所と共同で、全固体電池の開発を行っている。同社の全固体電池が狙っている市場は、EVではなく、IoT(モノのインターネット)、ウェラブルコンピュータ(身につけて持ち歩くコンピュータ)、モバイルデバイスなどだ。全固体電池というと、車載用を思い浮かべるが、FDKが開発しているそれは「酸化物系」の全固体電池である。
展示ブースで聞いた説明によると、全固体電池は大まかに分けて「硫化物系」と「酸化物系」の2種類が存在する。報道などでよく眼にする車載用の全固体電池は硫化物系とのこと。硫化物系の全固体電池は、「固体電解質の能力が高く、混ぜてプレスすれば電池かできます」(説明員)というぐらい作成方法が簡単なことが特長だ。しかし、硫化物系にはリスクもある。それは万一、空気中に中身が出てしまうと、空気中の水分と反応して硫化水素、つまり有毒物質に変化してしまうことだ。むろん、そうならないように製品化に際しては厳重な封止加工がなされているのだが、製造コストの問題や小型化への対応などもあり、ウェアラブル機器などでの利用には課題が多い。
FDKが富士通研究所と取り組む「酸化物系全固体電池」にはそのリスクはない。「これは、そもそも水分に反応しません。ですので、モバイルやウェラブルコンピュータなどに使っても(硫化水素が発生する)心配はない」(説明員)。展示されている試作物を見てもかなり小さなものである。センサーなどと組み合わせて利用するチップ部品としての電池を考えているとのこと。その場合充電はどうなるのだろうか。
「IoT用途に使うときは、全固体電池を組み込んだセンサーを設置し、太陽光発電から充電できるようなシステムを構築すれば、基本的に“ほったらかし”で大丈夫です。一次電池(現在使われている通常の乾電池のようなもの)は一度使ったらそれきり。しかし全固体電池にすれば、いちいち人がメンテナンスする必要はありません。」(説明員)。
つまり「チップ型全固体電池」と呼べそうなものだ。FDKのブースには製造方法のフローや試作品も展示されていた。開発が順調にすすめば、超小型の全固体電池がチップとしていろんなデバイスに組み込まれるようになる。
スマートフォンに使えば革命的に長持ちする電池として売れる気がするが?とたずねた。「安全性は担保できていますので、できたらそういう用途を狙ってきたいですね。しかし、酸化物系には課題もあります。硫化物系の全固体電池は製造が比較的容易といいましたが、酸化物系は製造時にセラミックスのお茶碗をつくるようなイメージで『焼結』(しょうけつ)しなくてはいけない。製造が硫化物系ほど簡単ではないのです」(説明員)つまり、膨大な需要を賄うための製造方法にまだ課題があるようだ。
まだ開発途上とはいえ、この小型全固体電池は非常に有望な部材になる可能性は高そうだ。説明員によると、2018年度中には商用にこぎつけたいとのことだった。